かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

アンチはじき (2021.05)


 はじめから下段に表示され,4:33ごろから解説を始めている,「30分で7.7km進む人の時速は?」について,6:31ごろに表示される「7.7×2=15.4」で求めたときには(そのようにする児童や大人に対して),「速さの求め方を理解している」と言うわけにいかないように思いました。
 速さの概念や,求め方を理解しているかどうかを確認するための,よりよい出題として,「28分で7.7km進む人の時速は?」を挙げることができます。


 先に「28分で7.7km進む人の時速は?」の求め方を見ておきます。はじきでも,教科書の「速さ=道のり÷時間」でもかまいませんので,適用して「7.7÷28」という式を立て,計算して0.275という値を得ます。
 これは何かというと,1分あたり0.275km進むことを表します。分速です。ちなみに時速・分速・秒速は,算数の教科書では速さの単元に載っています。
 問われているのは時速ですので,「1分あたり何km進むか」を「1時間あたり何km進むか」にします。60倍するだけです(幸いにもこの問題では,長さの単位変換が不要です)。0.275×60=16.5ですので,答えは「時速16.5km」となります。
 7.7÷28=0.275と0.275×60=16.5のいずれも筆算か,電卓使用可ならそれでもかまいませんが,少し工夫をすると暗算で求められます。式で書いてみると(7.7÷28)×60=1.1÷4×60=60÷4×1.1=15×1.1=15+1.5=16.5となります。7.7÷28=1.1÷4という等式は,「除数及び被除数に同じ数をかけても,同じ数で割って計算しても商は変わらない」*1として算数で学習するものを活用しています。
 次に「30分で7.7km進む人の時速は?」を検討します。動画の通り,7.7×2=15.4で求めて,「答え 時速15.4km」とするのは,正解となる一つの求め方です。
 動画では5:17ごろに「7.7÷30=??」と書かれている式について,これを手直しすることでも,正解に至ることができます。よさそうな方法は,時速すなわち「1時間あたりの道のり」を求める必要があるのですから,「30分」を「0.5時間」に変換しておき,あとは公式に当てはめるのです。式は7.7÷0.5で,筆算でもいいし,「●÷0.5は●×2」を活用することでも,7.7÷0.5=15.4が得られます。
 28分の場合と同じように,「1分あたり何km進むか」を求めてから「1時間あたり何km進むか」でも,得られそうです。総合式だと,(7.7÷30)×60となり,工夫して計算する*2ことで15.4が出ます。
 しかし分けて考えたとき,計算結果は必ずしも15.4になってくれません。7.7÷30を筆算で求めますと,割り切れませんので,とりあえず1000分の1の位(小数第三位)の0.256まで求めてから,末尾の桁を四捨五入して,0.26とします。そこに60をかけると,0.26×60=15.6です。なお,四捨五入する桁を一つ増やした場合には,7.7÷30≒0.257と0.257×60=15.42で,まだ15.4とのあいだには誤差があります*3
 小学校の算数の授業で,「30分で7.7km進む人の時速は?」と出題すると,このように分速で求めてから時速に直す方法と,分速を経ずに「時速は1時間で進む道のり」(動画では6:01ごろ)から求める方法とで,どちらを用いても(計算ミスがなければ)答えが同じになるのを確かめることも期待されます。しかし,算数ソムリエ氏の動画からは,そのような検討のあとが見られません。


関連:


追記:

  • 「速さ」のリンク集に,当記事を追加しました。
  • 本文にうまく入れることのできなかった,動画を観たときの問題意識の一つは,「30分で7.7km進む人の時速は?」と,化学などで行う計算との対比です。「×2」としたのが,モル計算で言うと,2molや0.5molのような簡単な値に限った状況への適用に見えるのです。私自身が日常,その種の計算に携わっているわけではないので,当事者として何かを述べるというものでありませんが,算数や(大学入試までの)数学で,「除数及び被除数に同じ数をかけても,同じ数で割って計算しても商は変わらない」や「●÷0.5は●×2」などを活用して効率化することや,出題時に指示(限定)されていなければ分数による解答も認められるのに対し,ある種の物理・化学そして情報処理の計算においては,分数よりも小数の表記が好まれ,有効桁数についても注意が払われます。情報処理というのは,メインブログで今年書いた記事のうち正五角形を描こう - わさっきhbが関連します。
  • 「はじきを描いたら...」に関しては,論文をWordで書くことへの反応というのを連想しました:WORDで論文書いちゃダメ? ~ DOC vs. TeX論争 - Togetter

*1:解説のつかない学習指導要領の算数に記載があります。ただし第4学年で,整数の除法の内容の取り扱いです。小数でも使用できるようになるのは,第5学年で,小数のかけ算・わり算の学習は,単位量あたりの大きさや速さの学習よりも,先になります。

*2:ただし,分数の乗除は第6学年の学習です。

*3:「30分で7.7km進む人は時速何kmですか。四捨五入して10分の1の位(小数第一位)まで求めなさい」と指示することによって,15.42に対して15.4とすることができますが,問題文の字数が多くなりますし,7.7÷30≒0.3とされてしまう可能性があります。