かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

367×204か,204×367か~筆算

 次の2つの筆算について,どちらが計算しやすいでしょうか。

 それぞれ,計算すると,次のようになります。

 3位数(3桁の整数)どうしの筆算だと,部分積(筆算の中で行う九九の計算)の数は3×3で9つ,と言いたいところですが,この問題では「204」と,0を含みます。この分は除外し,部分積の数は3×2または2×3で6つとなります。
 376×204の筆算は,答え(74868)を求めるのに,最初の2行と合わせて合計5行となり,204×376のほうは合計6行です。
 では,376×204のほうが,少ない手間で計算できるのかというと,そういうわけではありません。376×4=1468を計算するときに,十の位と百の位で,繰り上がりを考慮して書かないといけないのです(画像内に小さく書いた2つの「2」のことです)。367×2=734についても同様です。
 それに対し204×367のほうは,途中の行の(204×7=)1428,(204×6=)1224,(204×3=)612のいずれも,繰り上がりが発生することなく,計算して数を書くことができます。1428の行は,「七四28」と「七二14」の2つの九九を使用し,結果は,十の位と一の位,千の位と百の位に書きます。かける数の十の位が「0」になっているため,このようにできます*1
 「部分積」という言い方は,小学生はおそらく学習していませんが,「くり上がり」のほうは,1年生のときから学習しているはずです。そこで今回の問題を,小学生が解答するなら,次のように表せます*2

367×204も、204×367も、筆算で答えを求めるのに使う九九の数は、6回で同じです。
答えを求めるための行の数は、367×204が5行で、204×367の6行よりも少ないのですが、と中でくり上がりの計算が必要です。204×367の計算では、くり上がりを考える必要がありません。
計算しやすいのは204×367のほうです。

 今回の元ネタは,メインブログで2011年の元日に公開した記事です。ただし数値を変更しています*3

 このような筆算の比較を行う出題の事例(教科書を含む書籍,学習指導案,テスト問題など)は,見つかっていません。
 ところで,現行(平成29年告示)の小学校学習指導要領の算数では,「2位数や3位数に1位数や2位数をかける乗法の計算(略)その筆算の仕方」が,第3学年に入っています*4が,3位数どうしの乗法の計算は,見当たらず,そもそも乗法の筆算はこの項目のみです。
 昭和46年施行の小学校学習指導要領の算数*5には,筆算と明記されていませんが「整数の乗法についての計算がいっそう確実にできるようにする。」が第4学年に書かれており,ここに,3位数どうしの乗法の筆算が含まれるように思います。
 現在と当時との違いの一つとして,電卓の有無を挙げることができます。現在では367×204にせよ204×367にせよ,筆算で計算できるようにすることは必須ではなく,電卓を使用して答えを求めるのでもいい,というわけです。

*1:この計算でかける数の各桁は「3」「6」「7」となっていますが,これより小さい数,例えば2だと,204×2=408です。「二四が8」で,一の位に8を書いたあと,十の位に0を書く必要が出てきます。

*2:使用する漢字は,小学3年生までに学習するものばかりです。「途中」の「途」は配当外なので,「と中」にしています。

*3:5×偶数によって一の位が0になり,繰り上がりの処理がイレギュラーになると感じたからです。

*4:https://w3id.org/jp-cos/8250233131100000

*5:https://erid.nier.go.jp/files/COFS/s43e/chap2-3.htm