かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

水の深さ=時間×2

 算数指導に関して知っておくとよい情報がまとめられています。右開きで,本文は縦書きとなっていますが,イラストの文字は横書きです。巻末を見ると,執筆者は多岐にわたるのですが,イラストは奥付に「イラスト:吉村ともこ」とあるのみです。イラストに記載の文字は,フォントではなく1個1個手書きであるように見えます*1。「1」の字形について,上部に短い折れがあり(算数の教科書などで見かける字形と異なります),下部には横線はありません。
 そのイラストで引っかかったのが2つあり,本記事ではp.40を取り上げます。「水そうに水を入れた水の深さ(比例)」*2が,角丸四角形で囲まれており,その下には,「水そうに水を入れたときの,1分ごとの水の深さ」と書かれ,「時間(分)」「水の深さ(cm)」の2行による表がついています。表の数値の最初は「1」「2」で,そのあとは,上段は1ずつ,下段は2ずつ,増えています。
 表の下には円形の吹き出しがあり,その中身は「1分ごとに2cmずつ増えている。」「(水の深さ)=(時間)×2 とまとめられます」です。
 吹き出しの2つの文について,単体で見ると,間違いではないのですが,「1分ごとに2cmずつ増えているので,水の深さ=時間×2という式で表される。」と(例えば小学校の算数の比例の授業で)言うとなると,違和感があります。水の深さ=時間×2+0.5と表されるような状況のときにも,表を作って,「1分ごとに2cmずつ増えている」と言えるからです。
 比例と認識し,式で表すには,「最初に水は入っていない(時間が0のとき,深さは0)」を確認しておきたいところです。もしくは,表から読み取れる,「時間が1(分)のとき,深さは2(cm)」と,「1分ごとに2cmずつ増えている」を組み合わせることでも,「水の深さ=時間×2という式で表される」は認めてよいように思います。
 また別に,生じた疑問は,比例の関係であることを認識するか,あらかじめ「(いま考える場面では)水を入れる時間と,水そうの水の深さは,比例の関係にあります」のように前提として与えたときに,式は「水の深さ=時間×2」でよいのか,「水の深さ=2×時間」のほうがよりよい(子どもはこの式を書く)のではないか,ということです。
 yがxに比例するとき,y=決まった数×xと表せることを学んでいた場合にも,当てはめて得られる式は,「水の深さ=2×時間」のほうです。
 「水の深さ=時間×2」を得るには,表の列ごとに着目して(そして「分」「cm」といった単位を無視して),時間の値を2倍すると水の深さの値になることを,見ておく必要があります。
 ただし,本件はイラストレーターの過失というよりは,このイラストの作成を依頼した側の不備と言えます。本文(pp.40-41)とイラストは,内容的に関連があるとはいえ記載はいくらか異なります。イラストに近いところに,手書きでないフォントで書かれた,p.40右上の「日常の事象を(略)育成する。」は,文末(養う→育成する)を除き,(解説のつかない)小学校学習指導要領の算数にあります*3

*1:ただしp.41の3つの表にいて数値以外は同じ字形に見えます。

*2:「水の深さ」でいいの? 「水の高さ」ではないの? と思った方へ:算数では「水の深さ」を見かけます。学研サイトの事例だと https://kids.gakken.co.jp/box/sansu/05/pdf/B035202240.pdf を,また入試問題の例(「深さ」も「高さ」も出現します)は https://ameblo.jp/jukensansuwa/entry-12746775675.html をご覧ください。

*3:https://jp-cos.github.io/825/0100200000000