- 市川啓: 下学年でどのように「比例的推論」の素地をつくるのか, 算数授業研究, 東洋館出版社, No.151, pp.12-15 (2024).
その図を貼り付ける代わりに,言葉で説明します。「飴が4個で120円です。24個だと,何円ですか」という文章題において,飴の数が4個から24個になることを,「×6」と表します(24÷4=6です)。そして「比例的推論(比例関係を用いた推論)」により,金額も「×6」とすればよい,式は120×6=720,答えは720円というのが,Scalar ratiosです。
それに対し,Functional ratesでは,「飴が4個で120円」を,「4を30倍すると120」という数量の関係に置き換えます。ここで「30倍」というのは,120÷4=30により算出されるのですが,4個を単純に30倍する(結果は120個になる)というのではなく,「飴の数(個)」と「値段(円)」を別々に考えて乗法的に(この例では「×30」によって)結び付けることを意味します。24個だと,式は24×30=720,答えは720円というわけです。
タイトルのうち「下学年」について,3節は「1年 10までの数の合成分解」,4節では「2年 かけ算の導入」を各節の副題に記載し,実践内容を報告しています。4節のうち⑥(pp.14-15)を理解するのに,少し時間を要しました。
⑥ お店の人はなぜ素早く代金を言えるのかその秘密を店先にあった張り紙をもとに考える。
図7の写真は,子どもたちが実際に訪れた山寺の売店のジュースが入っていた冷蔵庫に貼ってあった掲示物である。この写真を見ながら,お店の人が代金を素早く伝えることができる秘密を考えさせる。その活動を通して,飲み物の種類に関係なく1本の値段が同じときは,本数が決まれば代金が決まること,このような対応表が作ってあればすぐに代金が言えることに気づかせたい。Functional ratesの素地となることを期待する。
「図7の写真」も,貼り付ける代わりに,表にします。
130円 | 160円 |
---|---|
×1―130 | ×1―160 |
×2―260 | ×2―320 |
×3―390 | ×3―480 |
×4―520 | ×4―640 |
×5―650 | ×5―800 |
×6―780 | ×6―960 |
×7―910 | ×7―1120 |
×8―1040 | ×8―1280 |
×9―1170 | ×9―1440 |
例えば,130円のジュースを2本買ったら260円であり,160円のジュースを7本買ったら1120円となることが,計算をしなくても分かります。
「Functional ratesの素地となること」を理解するのに,少し時間を要したのは,2行目以降の各行の乗算記号です。これがあるために,130円のジュースを2本買ったのなら,130×2=260であり,160円のジュースを7本買ったのなら160×7=1120であるように,見えてしまったのです。
表を以下のように書き換えることで,Functional ratesに基づき考えやすくなります。
130円 | 160円 |
---|---|
1本―130円 | 1本―160円 |
2本―260円 | 2本―320円 |
3本―390円 | 3本―480円 |
4本―520円 | 4本―640円 |
5本―650円 | 5本―800円 |
6本―780円 | 6本―960円 |
7本―910円 | 7本―1120円 |
8本―1040円 | 8本―1280円 |
9本―1170円 | 9本―1440円 |
かけ算の式で表すのなら,2×130=260,7×160=1120です。単位を入れて書くとなると,2本×130円/本=260円,7本×160円/本=1120円とするのが一案です。1本しか買わない場合の代金も同様に,1[本]×130[円/本]=130[円]と1[本]×160[円/本]=160[円]と表せます---もとの表の「×1」を,かけられる数に置いて,「×1×130」とするのは無理がありますが。
とはいえこの表は,「かけ算で考える」ためではなく,「(本数が1から9までのときには)かけ算で考えなくてよい」ために作成・掲示されたものと,考えることができます。また130や160を被乗数または乗数とする乗法は,学習指導要領に基づくと第3学年の学習となります。(図1と)図7以外には乗算記号が出現せず,「Functional ratesの素地となることを期待する」ことを意図した取り上げ方になっています。