かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

累加(2025.08)

1. 小学校学習指導要領解説算数編より

 「5個のまとまり」の4皿分を加法で表現する場合,5+5+5+5と表現することができる。また,各々の皿から1個ずつ数えると,1回の操作で4個数えることができ,全てのみかんを数えるために5回の操作が必要であることから,4+4+4+4+4という表現も可能ではある。しかし,5個のまとまりをそのまま書き表す方が自然である。そこで,「1皿に5個ずつ入ったみかんの4皿分の個数」を乗法を用いて表そうとして,一つ分の大きさである5を先に書く場合5×4と表す。このように乗法は,同じ数を何回も加える加法,すなわち累加の簡潔な表現とも捉えることができる。言い換えると,(一つ分の大きさ)×(幾つ分)=(幾つ分かに当たる大きさ)と捉えることができる。
(p.115)

 乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。つまり,同じ数を何回も加える加法,すなわち累加の簡潔な表現として乗法による表現が用いられることになる。また,累加としての乗法の意味は,幾つ分といったのを何倍とみて,一つの大きさの何倍かに当たる大きさを求めることであるといえる。
(p.87)

 乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。つまり,同じ数を何回も加える加法,すなわち累加の簡潔な表現として乗法による表現が用いられることになる。しかも,単に表現として簡潔であるばかりでなく,古来から受け継がれている乗法九九の唱え方を記憶することによってその結果を容易に求めることができるという特徴がある。また,累加としての乗法の意味は,幾つ分といったのを何倍とみて,一つの大きさの何倍かに当たる大きさを求めることであるといえる。
(pp.80-81)

2. 文献より

 わが国の算数におけるかけ算の導入では,単に九九を暗記させるだけでなく,子どもたちにかけ算の意味を理解させることに重点が置かれている.平成20年告示の学習指導要領でも,かけ算が累加の簡潔な表現であるとして累加を包含しながらも,累加自体ではなく,「一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる」こと,また「幾つ分といったのを何倍とみて,一つの大きさの何倍かに当たる大きさを求める」という意味を持つことに注意が向けられる.
(p.50)

Important ideas of multiplication

  • Multiplication sentences describe equal set situations.
    • Repeated addition and skip counting are ways to find the total (product).
  • The numbers in a multiplication sentences mean something specific:
    • Number in a group - multiplicand
    • Number of groups - multiplier
    • Total number of objects - product

(p.11)

(私訳*1
かけ算の重要な考え方

  • かけ算の式は、「等しいまとまりがある状況」を表しています。
    • 累加や、数を飛ばして数えることは、その合計(積)を求める方法です。
  • かけ算の式に出てくる数には、特定の意味があります。
    • 1つのまとまりの中にある数 - かけられる数
    • まとまりの数 - かける数
    • 合計 - 積
  • 遠山啓: 6×4,4×6論争にひそむ意味, 量とはなにか―Ⅰ内包量・外延量, 遠山啓著作集数学教育論シリーズ, Vol.5, pp.114-121 (1978). [asin:B000J8MZYC](初出は科学朝日1972年5月号, 朝日新聞社

また,4×6は,
   4×6=4+4+4+4+4+4
という意味だとすることにも私は反対である。
これは,つまり,“かけ算はたし算のくりかえしだ”という定義なのだが,これは適当ではない.この定義で教えると,4×1とか4×0とかいうかけ算がでてくると,とまどってしまう.
4×1は,たし算など使わないで,4という答えがでてくるので,かけ算をやるときはかならずたし算をやるものと教えられた子どもは,「4×1は4を1回たすことだから,4+4=8」などとやってしまう。また,4×0になると,さらに困る。もっと困るのは5,6年生になって,
   \displaystyle4\times\frac23,4×0.3
などのような×分数,×小数がでてくるときである。\displaystyle\times\frac23も×0.3もたし算ではないし,そのうえ,かけると,ふえるはずだと思っていたのが,かけて,減ることになって,子どもは頭をかかえてしまう。2年生のとき,かけ算をたし算のくりかえしだと教えこまれた子どもは,5,6年生になって完全にいきづまってしまうのである。
(pp.116-117)

日本式のかけ算の意味をどのように教えるかというと,かけ算をたし算から切り離して教えることが前提となる。具体的にはどうすればいいのか。
そのために,たとえば,ウサギが何匹かならんでいる絵をかいて,まず,ウサギ1匹に耳が何本あるかを考えさせる。そうすると,“1匹分が2本”であることがすぐわかるだろう。そして,たとえば,「3匹分の耳は何本か」と問い,それを
   2×3
の意味だとするのである。つまり,かけ算は“1あたり”から“いくつ分”を求める計算と定義するのである。
この定義のなかには,“たし算”は一つもはいっていないことに注意してほしい。(略)要するに,計算手段から切りはなしてかけ算を意味づけておいたほうがずっと一般化しやすいし,発展性があるのである。
(p.118)

 a)乗法を累加の考えで指導することについて
 累加の考えをさけようというのは,算数の指導についての基本的な立場の相異によることであって,乗法という問題だけで考察することは適切とはいえない.(略).しかし,乗法を加法の特別な場合を簡潔に表わすという立場から意味づけることは,とくに,低学年の場合には,教育的にも意味のあることであり,さきのラパッポルト氏の反論にもある.
 わが国でもこの立場をとっているが,アメリカの新しい計画による教科書でも,この立場をとっているものが多い.これには,ラパッポルト氏の指摘にもあるように,整数の段階では,集合の直積に近い意味づけをしても,累加の考えに帰著してほぼ処理できることや,直積の考えのままでは,実際に乗法を適用するに当たって,困難をともなうことなどの理由があげられよう.
(p.76)

なぜ算数では、乗法は累加として「定義」されていないのか?

  • 算数では,「定義」という用語を使用せず,代わりに「意味」「考え」を活用して、問題解決に当たることが期待されるため*3
  • 乗法の「定義」あるいは「意味づけ」あるいは「導入」には,複数の種類が考えられ,累加(の簡潔な表現)はその一つであるため。

*1:ChatGPTに問い合わせて得た結果を一部に使用しています。

*2:本文ではなく1枚目の画像の中に「累加」を入れています。

*3:例えば,https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2022/10/15/230959の「5×6は、式が5+5+5+5+5+5になるから問題文と合わない」