かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

「割合」とその周辺

 #掛算#超算数では,ときどき「割合」関連のツイートを見かけます。
 ツイートを離れ,小学校算数の「割合」とその周辺の情報を,自分なりに整理することにしました。
 はじめに,簡単にまとめておきます。

  • 割合の文章題の例は,『小学校学習指導要領解説算数編』より読むことができます。
  • 割合である場合,そうでない場合を含め,「小数の乗法及び除法」を5年で学習します。
  • 式のパターンは「B×P=A」「P=A÷B」「B=A÷P」の3種類です。割合の三用法と呼ばれます。
  • 割合の文章題を解くツールには,「みはじ」「2重数直線」などがあります。
  • 今年3月に告示された学習指導要領によると,速さは5年で学習することになります。

 以下,誤解されない場合には「第x学年」を「x年」と表記しています。

文章題に見る,割合

 割合の文章題の例は,『小学校学習指導要領解説算数編』に載っています(PDF版ではpp.166-167)。5年です。
 「1メートルの長さが80円の布を2.5メートル買ったときの代金が何円になるか」については,80×2.5という式で表せることを述べてから,B×P=Aという文字式を示しています。
 ここでBは「基準にする大きさ」,Pは「割合」,Aは「割合に当たる大きさ」です。2.5メートルが割合というのは,ちょっと分かりにくいところですが,80×2.5の式の直前に「布の長さが2.5倍になっているので,代金も2.5倍になるということから」と書かれており,これが理由となります。
 わり算は2種類あります。P=A÷Bと表す場合,AはBの何倍かを求めることとなり,包含除の考えに対応します。文章題は「9メートルの赤いリボンは,1.8メートルの青いリボンの何倍になるか」で,式は9÷1.8です。
 B=A÷Pで表されるわり算も,あります。基準にする大きさを求めるもので,等分除の考えに対応します。文章題は「2.5メートルで200円の布は,1メートルではいくらになるか」で,式は200÷2.5です。
 3つの文字の意図は書かれていませんが,Bはbase,Pはproportion,Aはamountの頭文字と考えることができます。Bについては「基準量」「土台量」,Aは「比較量」「比べる量」「比べられる量」と書かれることもあります。上記の2.5メートルのように,割合が,いわゆる無次元量ではなく具体的に測定できるものであれば,「測定値」という表記も知られています。昭和43年(1968年)告示の学習指導要領には「AのBに対する割合(Bを単位としてAを測った値)がpであるとき,Aを,B×pとして求める」が入っています。
 「1より小さい数をかけると,積は,かけられる数よりも小さくなる」や「1より小さい数でわると,商は,わられる数よりも大きくなる」も,この段階で学習します。

小数のかけ算・わり算

 ここまでについて,「割合」の用語が使われているものの,『小学校学習指導要領解説算数編』の該当箇所では,これを割合の理解や学習とみなしていません。かわりに「乗数や除数が小数である場合の乗法及び除法の意味について理解すること」と書かれています。
 上で理由を書いたものの,2.5メートルを割合に対応づけるのは,直感的ではありません。これについては2重数直線を使用し,かけ算の件であれば「1メートル」「80円」「2.5メートル」「□円」を数直線上に配置して,1メートルと2.5メートルから「2.5倍」を得る流れが期待されます。
 「小数の乗法及び除法」を,割合と直結させていないのはなぜかですが,面積計算を含む,他の種類のかけ算・わり算への適用を考慮しているため,と考えることもできます。
 例えば,長方形の面積を求める問題について,「たて8cm,よこ2cm」と「たて8cm,よこ2.5cm」と「たて8.3cm,よこ2.5cm」とで,扱いが異なってきます。最初の例は,1cm×1cmの単位正方形が8×2個(または2×8個)と考えることで,4年でも計算できます。2番目の例は,「たて×よこ=面積」の公式に当てはめるなら,8×2.5ですが,「よこ×たて」に当てはめるなら2.5×8で,そうすれば,4年の範囲内で計算できます。3番目の例は5年(小数の乗法)であり,積に,100分の1の位の数が出現することにも,注意しないといけません。
 ところで,小学校の算数で「小数の乗法」といえば,かけられる数が小数の場合であり,5年で学習します。かけられる数が小数で,かける数が整数の場合の乗法は,4年の学習事項です。0.1×3=0.1+0.1+0.1のように,累加で求められます。小数の乗法では累加で求められず,意味の拡張が必要となる,というのが,1960年代の中島健三による著作より知ることができ,現在の学習指導要領でも同じ立場となっています。
 それから,「円周率」も割合です。「円周の直径に対する割合のことを円周率という」は,『小学校学習指導要領解説算数編』でも記載されています。円周率の学習(どんな大きさの円についても,円周の直径に対する割合が一定であることも)とともに,直径の長さから演習の長さやその逆を計算で求めることを,5年で学びます。円の面積は,6年です。
 解説のつかない,「小学校学習指導要領」の5年で言及されている「割合」は,「異種の二つの量の割合」です。人口密度(混み具合)が,解説で例示されています。「単位量当たりの大きさ」とも書かれます。

割合の三用法

 割合のかけ算・わり算について,式のパターンは「B×P=A」「P=A÷B」「B=A÷P」の3種類です。「P×B=A」は学習しません。
 3種類あることについて,古くは「比の三用法」,そして現在では「割合の三用法」と書かれます。その場合,割合を求める式の「P=A÷B」が第一用法となります。かけ算の「B×P=A」が第二用法,もう一つのわり算の「B=A÷P」が,第三用法となります。
 1つのかけ算・2つのわり算で対応づけられることについては,国内に限った話ではなく,Greerの分類表や,米国Core Standardの表などからも,知ることができます。
 小学校3年のかけ算・わり算文章題を対象とした作問学習支援システムが,2017年1月1日付けで,ある論文誌に掲載されています。「割合の三用法」に基づいていることが,本文で記されています。

割合理解の支援

 割合の文章題に対して,適切な式を立てること(演算決定)を支援するためのツールも,いくつか知られています。
 速さに関しては,「みはじ」などと呼ばれる図があります。道のりの「み」,速さの「は」,時間の「じ」を以下のように配置します。

 3つのうち,未知のものを隠せば,わり算またはかけ算で,その未知の値を計算できる,というわけです。
 この種の図は中学1年の教科書(ただし,小学校の学習内容の復習として)や,海外の学術書,また子ども向けの本でも見かけます*1。割合では「くもわ」または「く・わ・もと」に置き換えられます。
 小学校の算数で,「みはじ」または同種のツールがどのくらい,活用されているかは不明ですが,ある学力調査の応用問題は,示唆を与えてくれます。東京都算数教育研究会が実施しているもので,次の出題です。

 2つの小問のうち,「道のりのちがいは,何kmになりますか。」と問う(2)は,「みはじ」だけでは困難と言っていいでしょう。
 東京都の児童,約60,000人が解答していて,(1)の正答率は90%ほど,(2)は70%台後半です。他の問題の正答率と比較しても,(2)の出来が良いと言えます。推測ですが,(2)の類題が教科書にあるのではないか---結局のところ,速さといえば「みはじ」ではない,と思われます。
 また別のツールも知られています。2本の数直線を上下に並べ,0を左端とし,右に伸ばします。2つの数直線(異なる量)の間で,「1メートルの長さが80円」のような,対応づけされる値は,上下で同じ位置にします。
 単純な数直線と区別するため,「比例数直線」または「二重数直線」と書かれることがあります。米国Core Standardでは,"double number line diagrams"という用語を見かけます。『小学校学習指導要領解説算数編』には,1とBとPとB×Pを含む数直線の図が掲載されていますが,この種の数直線が算数教育で活用されるきっかけとなった,白井らの論文では,以下のように,既知の値と未知の□とで表現しています。
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 ただしこの図式表現に関連するものは古くからあり,例えば横線は1本で,上下に異なる(対応する)量の値を書くものや,「∠」の形のように,ゼロを1点にして2方向に伸ばすものもあります。また数直線にしなくても,2×2や,列の数を増やした表も,実質的には同じものと言えます。ただし数直線にすると,大小関係(「1より小さい数をかけると,積は,かけられる数よりも小さくなる」なども)が視覚化でき,倍操作(ある値からある値に矢印を向けて「2.5倍」などと書くことがあります)が形式的にならない,というメリットもあります。

どんなことを何年で学ぶか

 現行の学習指導要領などは,平成20年(2008年)告示されたものです。そこでは,「割合」の用語は5年に出現します。
 かけ算に関して,小数×整数は4年,整数または小数×小数は5年,分数×整数は5年,分数×分数は6年で学習します。わり算も同様ですが,20÷8=2.5(2あまり4ではなく)と計算する「割り進み」も,4年に含まれています。
 比例の用語も,5年で学習します。比例の詳しい学習や,問題解決などは6年です。比の概念も6年です。円周率の学習と直径・半径・円周の計算などは5年,円の面積は6年です。
 今年(平成29年,2017年)告示の学習指導要領では,割合や,小数のかけ算・わり算は5年で学習しますが,いくつか違いもあります。
 かけ算に関して,分数×整数は,6年に移っています。分数÷整数も同じです*2。一方,速さは,5年に変わります。「異種の二つの量の割合」「単位量当たりの大きさ」として,取り上げられています。
 新しい学習指導要領では,ABCDの領域に変更がありました。「A 数と計算」はそのままですが,「B 図形」(これまではC),「C 測定」は3年までで4年からは「C 変化と関係」,そして「D データの活用」が新設されています*3
 「割合」は,5年の目標に「整数の性質,分数の意味,小数と分数の計算の意味,面積の公式,図形の意味と性質,図形の体積,速さ,割合,帯グラフなどについて理解するとともに(以下略)」と明記されました。
 なのですが,4年に「割合」の用語が出現します。Cの領域で,「簡単な場合について,ある二つの数量の関係と別の二つの数量の関係とを比べる場合に割合を用いる場合があることを知ること。」と書かれています。
 割合の導入としてこれまで用いられている,バスケットボールなどのシュートのうまさが,これからの教科書では4年に掲載される,という可能性が考えられます。
 新しい学習指導要領に基づく「解説」は,まだ出されていません。個人的には,昨年,日本学術会議数理科学委員会数学教育分科会が出した「初等中等教育における算数・数学教育の改善についての提言」の脚注に見られる二次元表が,小学校の算数の解説に入るのか同か,そして表から割合を求めるような学習が,教科書に載るのか,教科書外の学習事例として展開されるのかが,気になっています。

*1:ただし「速さ」など,異種の二つの量の割合は,左下に置かれ,かけ算の式では,かけられる数になります。この量を一定としたとき,道のりは時間に比例します。速さや単価といった「1あたり量」は,比例定数となり,y=axのaに対応づけられます。

*2:「乗数や除数が整数や分数である場合も含めて,分数の乗法及び除法の意味について理解すること。」が,第6学年 A(数と計算)に記載されています。

*3:これまでの「D 数量関係」の内容は,AまたはCの領域に移行し,学習事項で削られたものは見当たりません。例えば四則の混合した式などは,現行では4年D,新しいものでは4年Aです。比例については,現行では5年Dと6年D,新しいものでは5年Cと6年Cです。