かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

わり算の順序

 6÷3=2ですが,3÷6を計算せよとなると,まず思い浮かぶのは0.5です。分数で答えるなら,約分して\frac12が考えられます。
 a÷bとb÷aとで,答えが違ってきます(a=bのときを除いて)。文章題で,一方の式が正解,他方が間違いというのが,小学校5年を対象とした調査で使用されています。答えは違うものの,そこから得られるものは同じだという事例もあります。

1. 8÷4ではなく4÷8

 調査問題として,まず紹介したいのは,「8mの重さが4kgの棒があります。この棒の1mの重さは何kgですか。求める式と答えを書きましょう。」です。2010年(平成22年度)実施の全国学力・学習状況調査,算数A大問2の(1)です。
 わり算で求めるのですが,8÷4=2としたら,1kgの重さが2mとなってしまいます。正解となる式は,4÷8です。答えは0.5(kg)ですが,8分の4のように,約分していない分数も,正解扱いとされています。
 正答・誤答の状況は,国立教育政策研究所のサイトで公開されており,以下より知ることができます。

 解答類型と反応率の表によると,式が「4÷8」,答えは「0.5と解答しているもの」が54.1%,そして同じ式で答えは「\frac48と解答しているもの(大きさの等しい分数を含む)」が0.0%となっています。誤答については,式が「8×4」を,答えは何であってもひとまとめとし,反応率は31.1%です。
 この3年後に実施の中学Aに「aメートルの重さがbグラムの針金があります。この針金1メートルの重さは何グラムですか。a,bを用いた式で表しなさい」という問題があり(この正答率は33.7%),その解説の中にも,小学校の棒の重さの問題は正答率54.1%と書かれていました。
 2010年調査の算数の解説には,「商が1より小さくなる等分除(整数)÷(整数)の場面では,何が被除数で何が除数かをとらえることが困難な場合がある。そのような場面からも,数量の関係をとらえ,除法を用いることを判断できるようにすることが大切である」とあり,2013年調査の数学の解説には,「問題文に登場する数量の順に,aメートルをbグラムでわればよいと捉えた生徒がいると考えられる」と分析されています。
 これらの,いわば「わり算の順序」を問う問題では,4÷8か8÷4か,\frac{b}{a}(a分のb)か\frac{a}{b}(b分のa)かに,焦点を当てることができます。個人的には,これらが正解できるようになるために,「かけ算の順序」も必要だと主張するよりは,非可換である減法・除法のみならず,(増加の意味の)加法や,(累加や割合に基づく)乗法では,演算対象となる2つの数量には違いがあるわけで,それを踏まえて,子どもたちが場面を把握できるようさまざまな出題が作られており,授業やテストで問われてきた,と認識しています。
 海外にも,同様の出題が見られます。文献は以下のとおりです。

  • Fischbein, E., Deri, M., Nello, M. S. and Marino, M. S. (1985). The Role of Implicit Models in Solving Verbal Problems in Multiplication and Division. Journal for Research in Mathematics Education, Vol.16, No.1, pp.3-17. http://www.jstor.org/stable/748969

 この文献のTable 1では,12個のかけ算と14個のわり算の文章題が,表になっています。このうち16番目は,"15 friends together brought 5 kg of cookies. How mush did each one get?"という文章題です。
 Table 3を見ると,「5÷15」の正答率が第5学年で20%です。誤答のうち「15÷5」が68%を占めます。第7学年・第9学年の生徒にも解いてもらっており,学年にともない正解率は上がりますが,第9学年でも半数以上が15÷5を解答しています。
 大きい数÷小さい数,ではなく,わって得られる値が何を意味するのか,文章題で問われていることと合致するかが,国内外で検証されてきたと言えます。そして,昭和26年の小学校学習指導要領算数科編(https://erid.nier.go.jp/files/COFS/s26em/chap5.htm)で指摘された,「こどもは問題に出てくる数を,その数の意味を深く考えもしないで,出てくる順に書き並べ,その間に,かけ算記号を書き入れることがわかった」が,わり算でも通用することを示唆します。
 かけ算の順序が問われるのは,主に2~3年です。わり算は,3年で学習しますが,そこでは4÷8や5÷15といった式を立てる機会はありません。わり算の順序は,割合や小数の乗除を学習する5年の段階で出題されてきたわけです。「かけ算の順序」と「わり算の順序」とを同列に扱えない,と言うこともできます。

2. 6÷20と20÷6,答えは違うけど,どちらで計算しても結論は同じ

 「a÷bとb÷a,答えは違うけど,それぞれに意味がある」,そして「どちらのわり算でも,同じ結論になる」という事例を紹介します。

 イランとアメリカは「かけ算の順序」,日本は「わり算の順序」に関する授業です(かけ算の順序を授業にすると~イランとアメリカ - わさっき)。日本の授業は,5年の算数です。「Aは6平方mで20人います。Bは4平方mで15人います。どちらが混んでいるでしょうか。」という出題が,中心になっています。
 「どちらが混んでいるでしょうか」というのは,混み具合です。1平方mあたりの人数に直すと,Aは20÷6=3.33...,Bは15÷4=3.75で,1平方mあたりの人数はBのほうが多く,したがって,混んでいるのはBだ,というのが想定される答えの一つです。
 わり算を逆にすると,計算結果が違ってきます。Aは6÷20=0.3,Bは4÷15=2.66...です。そしてこれは,1人あたりの面積です。1人あたりの面積はBのほうが小さく,ここからも,混んでいるのはBだと言えます。
 わる順序を逆にすると,得られる商の意味は変わり,大小関係も反対になります。1平方mあたりだと,3.33...<3.75で,1人あたりだと,0.3>2.66...です。そして,混み具合としては,1平方mあたりの人数が多いほう,1人あたりの面積が小さいほうが,「混んでいる」というわけです。
 ここまで割り切れないときには「...」を書いてきました。1平方mあたりの人数を求めるのだと,Aでは割り切れず,1人あたりの面積を求めるのであれば,Bでは割り切れません。これは,割り切れるほうでわり算(わる数)を揃えさせない意図的なものだろうと思いながら,『小学校学習指導要領解説算数編』を見ると,現行および次期のPDFには「10平方mの部屋に7人いる場合と15平方mの部屋に10人いる場合について混み具合を比べる」が書かれていました。5年です*1。この例でも,1平方mあたりで比べるのであれば,「15平方mの部屋に10人」のほうの10÷15が割り切れず,1人あたりで比べるのであれば,「10平方mの部屋に7人」について10÷7が割り切れません。
 一つ前の解説(1999年)については,書籍[isbn:9784491015507]を見ました。単位量当たりの大きさは6年でしたが,具体的な数を用いた場面の提示はありませんでした。
 AとBの混み具合の授業について,サルカール アラニによる紀要の脚注34に,出典が書かれており,少し調べると,以下の本にたどり着きました。Amazonで購入可能となっていますが高額です。

 「a÷bとb÷a,答えは違うけど,それぞれに意味がある」とはいっても,「8mの重さが4kgの棒があります。この棒の1mの重さは何kgですか」の問いに対して8÷4=2と計算し,答えとして「2kg」「2m」「2m/kg」のどれを書いても正解とならないのにも,注意したいところです。

3. 速さ=道のり÷時間でなければならないのか?

 「はじき」または「みはじ」と呼ばれる公式があります。メインブログでみはじ・くもわ (2015.08) - わさっきというまとめを作成しています。当ブログでは今年,アンチはじきという記事を書いてきました。
 次期の『小学校学習指導要領解説算数編』では,(速さ)=(長さ)÷(時間)という式が例示されています。ただし,長さを求める式や,時間を求める式の記載はありません。
 「時間÷長さ」を速さとすることも,可能ではあります。解説では,「一方で日常生活などでは,速さを,一定の長さを移動するのにかかる時間として捉えることがある。例えば100m走などの競技では,100mを走るのにかかる時間によって速さを表している。時間が短いほど,速さが速いということになる。(略)速さを,一定の長さを移動するのにかかる時間として捉えると,速いほど小さな数値が対応することになる。」と記しています。ただしこの続きは,「一般に速さについては速いほど大きな数値を対応させた方が都合がよいため,時間を単位量として,単位時間当たりの長さで比べることが多い。」でして,やはり速さの公式は「速さ=長さ÷時間」となります。
 「速さ=長さ÷時間」が一般的だけれど,わり算の順序を反対にして「時間÷長さ」も,速さに関する量となるのだ,とみると,混み具合も同様です.人口密度と言えば,1平方kmあたりの人数ですが,面積を人数でわることでも,混み具合を算出し,比較に使えるのです。
 また別の,異種の二つの量の割合として,単価があります。aメートルでb円の布の単価はと問われると,1メートルあたり何円かと考えるのが自然であり,式は,b÷aです。
 ですが,1円で何m買えるのかを,単価とするのなら,a÷bという式になります。
 駐車料金を対象として,以下の記事で,検討を試みました。

 その検討から,いくつか言葉の式を,得ることができます。まず,「単価[円/分]=料金[円]÷駐車時間[分]」により,単価を定義するのなら,そこから「料金[円]=単価[円/分]×駐車時間[分]」および「駐車時間[分]=料金[円]÷単価[円/分]」という式も導けます。
 次に,わり算の順序を逆にします。「単価'[分/円]=駐車時間[分]÷料金[円]」と定義します(「単価[円/分]×単価'[分/円]=1」「単価[円/分]=1÷単価'[分/円]」でもあります)。すると,「駐車時間[分]=単価'[分/円]×料金[円]」および「料金[円]=駐車時間[分]÷単価'[分/円]」が導けます。
 単価[円/分]を用いた3用法では,料金[円]はかけ算で,駐車時間[分]はわり算で求めます。それに対し,単価'[分/円]に基づく3用法では,駐車時間[分]はかけ算で,料金[円]はわり算で求めます。かけ算とわり算が,反対になっていますが,ともあれ具体的な数を与えられれば,計算はできますし,それぞれの3用法が,かけ算が1つでわり算が2つで構成されているのも,共通しています。
 わり算の順序を反対にしても,問題なく計算できます。しかしながら2種類の3用法にまとめ上げることは,小学校の算数の範囲外と言わざるを得ません。
 ここでの検討を,小学校の算数に反映させるなら,わり算を逆にして得られる,2つの単位量あたりの大きさが,逆数となる点でしょうか。「8mの重さが4kgの棒があります」を前提として,この棒の1mの重さは,0.5kgですが,1kgの長さは,2mであり,パー書きの量を用いて0.5[kg/m]×2[m/kg]は1(無次元量)となります。Fischbeinらの"15 friends together brought 5 kg of cookies."についても,\frac{5}{15}[kg / person]×\frac{15}{5}[person / kg]=1です。

*1:ただし,その後を読むと,公倍数の使用が推奨される展開となっています。サルカール アラニ(2010)に書かれた,AとBの混み具合の件だと,6と4の最小公倍数をもとに,12平方mの人数で比べることになります。Aは,6平方mを12平方mにするので,人数も2倍して20×2=40です。Bは,4平方mを12平方mにするので,人数は3倍で15×3=45と求められます。12平方mあたりにすると,Aは40人,Bは45人だから,Bのほうが混んでいます。この計算では,小数の乗除は使わないものの,倍数・最小公倍数のほか,比例関係(面積をp倍して,同じ混み具合にするには人数もp倍する)も必要とします。やはり,5年の学習事項です。