かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

じゃんけんゲームの時系列処理

  • 山本良和: 言語としての式の機能の意識化に関する一考察―1年「たし算」―, 算数授業研究, 東洋館出版社, Vol.118, pp.68-71 (2018).

算数授業研究 Vol.118 論究XIII 算数で育てる子どもの表現力

算数授業研究 Vol.118 論究XIII 算数で育てる子どもの表現力

 「研究対象授業」について見ていきます。以下のルール(p.69を改変)で「じゃんけんゲーム」を実施します。

【ルール①】

  • 2人組でじゃんけんを2回する。
  • 1回につき,勝ち3点,引き分け2点,負け1点。
  • 合計点を求め,「x対y」で表す。

【ルール②】

  • 2人組でじゃんけんを2回する。
  • 1回につき,勝ち3点,引き分け1点,負け0点。
  • 合計点を求め,「x対y」で表す。

 これら2つのルールは,異なる授業時間での適用となります。具体的には,【ルール①】のじゃんけんゲームは,「ふえるといくつ」として配当した4時間の授業のうちの最後に実施し,【ルール②】についてはその次,「0のたし算」での実施となります。
 さて,【ルール①】に基づき,クラスの子どもたちが2人組になってじゃんけんゲームを行います。先生(著者の山本氏)が,全員の結果を確認したとしながら,「2対6」「4対4」「3対5」「5対7」「5対5」「5対3」「6対0」「4対3」を黒板に書きます*1
 ですが子どもたちはすぐに,「6対0」はおかしいと指摘します。1回すれば,負けても点数がつくので,2回やって「0点」にならないからです。要は先生による捏造です。
 そこで他の対戦結果についても,起こり得るか否かを,授業を通じてチェックしていきます。上で8つ挙げたうち,「6対0」のほかに「5対5」と「4対3」も起こり得ないと言えます。というのも【ルール①】では,1回のじゃんけんで2人が獲得する点数の合計は必ず4点であり,2回だと合計8点です。「6対0」も「5対5」も「4対3」も,この必要条件を満たさないのです。
 【ルール②】でも同様に実施したのち,先生は「4対1」「3対3」「0対6」「2対2」を提示します。これらはいずれも起こり得ます。その検証に(【ルール①】の授業でも見られましたが),増加の意味の加法が有効活用できます。「4対1」について,1回目は一方の勝ち,2回目は引き分けとすれば,3+1=4と0+1=1という式に表せます。「3対3」については,2人が1回ずつ勝ったという状況が考えられ,式は3+0=3と0+3=3です。「0対6」は,一方が2回勝った場合が該当し,式は0+0=0と3+3=6です。「2対2」は,2回とも引き分けで,1+1=2と1+1=2です。
 加法の記号「+」の左側に,1回目のじゃんけんで獲得した得点を書き,右側には2回目のじゃんけんで獲得した得点を書くことで,合計得点が求められます。また2人のたし算の式を上下に並べて書けば,「+」の左側の(上下に並んだ)2つの数は,「3と0」「1と1」「0と3」のいずれかであり,「+」の右側についても同様です。そうでない場合には,書き間違いがあるよと,指摘をすることもできます。2人が1回ずつ勝ったときに,3+0=3と3+0=3という式を書いたときにも,おかしいんじゃないのと,ツッコミを入れられるわけで,これは昨日付けの記事で引用した「始めにAあったところにBが追加されると「A+B」という式になる。「B+A」としたら変だと子どもが感じられるようになったとき,増加の加法の意味と式という表現が理解できたと言える」と関係してくる話です。
 ここから元の文章を離れた検討を行います。目的は,「+」の左側に1回目,右側に2回目を書かないような,定式化です。ルールを次のように変更します。

〔ルール〕

  • 2人組でじゃんけんをn回する。
  • 1回につき,勝ちp(w)点,引き分けp(d)点,負けp(l)点。
  • 合計点を求め,「x対y」で表す。

 勝敗について,G={w,d,l}という集合を定義しておきます*2。nは正整数,pはGから実数への写像とします。n=2, p(w)=3, p(d)=2, p(l)=1と割り当てれば【ルール①】に対応し,【ルール②】についても同様に割り当てを決めることができますので,〔ルール〕は,【ルール①】および【ルール②】の一般化となっています。
 各回の勝敗に関する制約条件も,取り入れないといけません。2人組でじゃんけんを1回行ったとき,一人が勝ちならもう一人は負け,引き分けなら相手も引き分けとなることです。これに関しては,一方の勝敗に対する他方の勝敗を,写像として導入します。すなわちoをGからGへの写像とし,o(w)=l,o(d)=d,o(l)=wとします。
 2人組の一人に着目して,n回,じゃんけんを実施したときの勝敗を順に,g1, g2, ..., gnと表します。それぞれの回に得た点数は,a1=p(g1), a2=p(g2), ..., an=p(gn)です。相手の勝敗は,順にo(g1), o(g2), ..., o(gn)であり,得点は,b1=p(o(g1)), b2=p(o(g2)), ..., bn=p(o(gn))です。
 着目した人の合計得点は,x=Σai=Σp(gi)(範囲を明示するなら,\displaystyle\sum_{i=1}^n ai\displaystyle\sum_{i=1}^n p(gi))であり,もう一人の合計得点はy=Σbi=Σp(o(gi))(=\displaystyle\sum_{i=1}^n bi\displaystyle\sum_{i=1}^n p(o(gi)))です。総和を求める手順は関知しない(先頭から足していく必要はない)とすれば,これによって,「たし算の順序」なしに,このじゃんけんゲームの各回の勝敗・得点および合計点を,記述もしくは算出できるというわけです。
 ここまでの流れを,1枚の画像にしました。
f:id:takehikoMultiply:20180825050325j:plain
 時系列の扱いは,加法という演算ではなく,「g1, g2, ..., gn」という記号を導入したところで,対応がなされています。1回分のじゃんけんゲームの勝敗を,得点計算のためのルールと分離した,と言うこともできます(それに対し1+3=4といった式には,勝敗を数値化したものと,得点計算のルールの両方が含まれています)。とはいえ,「たし算には順序がない」と主張するときの,このじゃんけんゲームの得点計算に関する認識が,ここまで書いてきた通りであるかどうかは,定かではありません。

*1:第1学年の授業ですので,「対」は黒板では「たい」となっています。ついでに,「じゃんけんゲーム」ではなく「じゃんけんげえむ」です。

*2:Gはgame,wはwin,dはdraw,lはloseの頭文字です。写像に関して,pはpoint,oはoppositeに由来します。

被加数と加数の順序

  • 山本良和: 感覚的な身体表現から数理的な言語表現を引き出す―「片手バイバイ」,「両手バイバイ」―, 算数授業研究, 東洋館出版社, Vol.118, pp.46-47 (2018).
  • 山本良和: 言語としての式の機能の意識化に関する一考察―1年「たし算」―, 算数授業研究, 東洋館出版社, Vol.118, pp.68-71 (2018).

 「片手バイバイ」は合併,「両手バイバイ」は増加をいいます。1年の加法の意味理解の授業の中で,子どもが「(この話は)片手バイバイだ!」とつぶやいた*1のを著者が拾い上げています。
 2番目の文章は「研究発表」となっています。研究主題について,研究対象,研究内容(2つの研究対象授業),研究の成果と今後の方向性,という4部構成です。
 研究主題の中に,増加を,合併と区別して(子どもが)理解することの意義が書かれた文章がありました(p.68)。

 通常,加法の導入では合併を扱い,その次に増加を扱う。これらの違いは時間である。合併は同時に存在する2つの数量を合わせるのに対して,増加は初めにある数量に追加したり,増加したりしたときの大きさを求める。どちらも「+」を用いた式で表現されるが,式としての意味に違いがある。
 AとBという2つの数量の合併を式に表すと,「A+B」でもよいし「B+A」でもよい。つまり,どちらに先に目を付けるかという違いであり,1年生の子どもも理解できる。一方,増加の加法は時系列の順があり,始めにAあったところにBが追加されると「A+B」という式になる。「B+A」としたら変だと子どもが感じられるようになったとき,増加の加法の意味と式という表現が理解できたと言える。合併と増加の加法の式を対比し,被加数と加数の順序を検討することは,式の言語としての機能を意識することにつながっている。

 「被乗数と乗数の順序」であれば,2017年6月に文部科学省サイトで最初のバージョン(PDFファイル)が公開され,今年書籍として出た『小学校学習指導要領解説(平成29年告示)算数編』に記載があります*2が,「被加数と加数の順序」は見当たりません。この表記は,著者(山本氏)から私を含む読者に対し,『小学校学習指導要領解説算数編』をしっかり読もう*3,そしてその字面に囚われることのないようにしよう,というメッセージであるように思えます。
 ともあれ,http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htmより本記事執筆時点で参照可能なhttp://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1387017_4_3.pdfを読み直し,増加と合併が使用されている箇所を見ていくことにします。ページ番号はPDFのページではなく,該当ページの最下段に表示されているものを記載します。(あ)から(お)までで構成された,「加法が用いられる場合」の箇条書きは,p.84にありますが,同じページの「加法は二つの集合を合わせた集合の要素の個数を求める演算であり」の箇所から,5つの中で基礎をなすのは合併であることが読み取れます。
 次のページ(p.85)の「例えば,あさがおの種について,昨日取れた個数と今日取れた個数を合わせた個数を求めることを,加法の式で表すことができる。」は,時系列の順を意識するなら増加の意味ですが,合併で考えても差し支えない場面です。同じ段落の,たし算・ひき算の式については,増加・求残の意味と考えられます。
 さらに次(p.86)の「太郎さんは,前から8番目にいます。太郎さんの後ろに7人います。全部で何人いるでしょう。」について,新しい解説に明示*4された(う)の順序数を含む加法ですが,図の直後の「太郎が8番目にいるということは,太郎がいるところまでの人数は8人であり,同時に存在する二つの数量を合わせた大きさを求める場面と数量の関係が同じとみて,8+7というように加法の式に表すことができる。」によると,合併を根拠としています。ここで例示された,順序数を含む加法の場面は,合併に帰着できるというわけです。
 2年に上がると,加法と減法の相互関係(p.111)において,「A(男の子の人数)とB(女の子の人数)が分かっていてC(全体の人数)を求める場合が加法で,A+B=CやB+A=Cとなる。」とあり,合併の場面です。同じページの「はじめにリンゴが幾つかあって,その中から5個食べたら7個残った。はじめに幾つあったか」については,7にあたる量を左,5にあたる量を右に置いてつなぎ,全体を□としたテープ図のすぐ上に「□を7+5として求める。」と書いてあります。時系列として「7個残った」が先,「5個食べた」が後という(すなわち増加として考えている)わけではなく,□-5=7 ⇒ □=7+5というのが,加法と減法の相互関係になっている,と解釈するのがよさそうです*5
 「はじめにリンゴが幾つかあって,5個もらったら12個になった。はじめに幾つあったか」(pp.111-112)について,□を用いた式は「□+5=12」のみです。これは増加の場面です。
 加法の交換法則は,pp.112-113で詳しく述べられています。「ふくろにどんぐりが8個,もう一つのふくろにどんぐりが16個入っています。どんぐりは全部で何個でしょう。」に対し,式は「8+16=24」と「16+8=24」を明示し,「8+16の結果と16+8の結果とを比べることで,加法では,順序を変えて計算しても答えは変わらないことが分かる。図からも,左右の数を入れ替えても,全体の数は変わらないことを見いだすことができる。」としています。合併の場面です。
 『小学校学習指導要領解説算数編』において,増加の場面と合併の場面,そして直接的にはそのどちらでもない場面が,目的に応じて使い分けられているとみてよいでしょう。


 文献から離れ,山本氏の記述のうち「対比」に関して,自分なりに検討しておきます。増加・合併に限らず,次のような文を作ることができます。

  • 「2と3を足す」と「2に3を足す」
  • 「2と3を掛ける」と「2に3を掛ける」
  • 「xとyは比例の関係にある」と「yはxに比例する」
  • 「君と僕の意見は同じだ」と「君の意見は僕と同じだ」

 各項目の前者のカギカッコには,英語のandに対応する「と」があり,2と3,xとy,君(の意見)と僕の意見,がそれぞれ,一体として,演算の対象または主語となっています。そして山本氏の記した「「A+B」でもよいし「B+A」でもよい」と同じく,「と」の左右を交換しても意味は変わりません*6
 それに対し各項目の後者のカギカッコでは,2,y,君の意見のみが,それぞれ目的語(演算の対象)または主語となっており,3,x,僕(の意見)は直後の助詞と合わさって,術語(足す,掛ける,比例する,同じだ)を修飾する形です。2つの言葉を交換すると,ニュアンスが変わってきます。とくに算数においては,「2に3を足す」と「3に2を足す」,「2に3を掛ける」と「3に2を掛ける」について,それぞれ異なる意味(具体的な場面)を与えることが可能となっています。
 英語で書かれた文章からも,同様のことを知ることができ,海外では,「かけ算の順序」「たし算の順序」についてどのような見解を出していますか? - わさっきで取りまとめてきました。


 「算数授業研究 Vol.118 論究XIII」を通して読んで,興味深かったところを書き出しておきます。

  • p.25(青山和裕): 「ピーマンを食べれば記録が良くなる」「ピーマン好きは野菜もよく食べていて健康だから記録が良い」を例に,「推測していることをまるで事実のように思いこんでしまうのはとても危ないので注意したい」
  • p.29(高橋昭彦):「どうやって計算したか」ではなく「なぜ数が変わって繰り上がりが増えても筆算を使って計算できるか」
  • p.39(前田一誠):板書「おにいさんがみかんを8ふくろ買ってきました。どのふくろにも2こずつ入っています。」に対し式は2×8=16。「2×8+3×8=5×8」の筆算形式も
  • p.41(細水保宏):最後の数直線図には,2本の数直線をまたぐ矢印が3つ。その一つは,矢印の両端に「×2」が添えられている。残りの矢印には添え字なし
  • pp.42-43(正木考昌):違和感のある「磯部」の出現。最終段落の「6+4の加数分解の計算過程」は「8+6の(以下同じ)」と思われる
  • p.45(夏坂哲志):3\frac35÷\frac34の筆算。商の整数部は4,非整数部は\frac45

*1:感嘆符がつくような「つぶやき」がどのようなものなのか,個人的に想像できないのですが。

*2:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2017/06/28/054525

*3:今回引用した箇所の4行上,「学習指導要領では」は「学習指導要領解説では」のはずです。

*4:https://twitter.com/takehikom/status/878435461106028545

*5:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20120712/1342032806

*6:こういうときの「交換可能」について,英語では"symmetric"も見かけますが,"interchangeable"をよく目にします。「交換不可能」のほうは,"asymmetric"です。

a×b×cのbは,かける数か,かけられる数か

 小学校の算数で,3つの数のかけ算で立式できる事例をもとに,その2番目の因数の意味を見ていくと,場面(事例)により,「かけられる数にもかける数にもなる」もの,「かける数に限定される」もの,「かける数または因数になる」ものがあります。
 この記事を作るきっかけとなったのはhttps://twitter.com/antiMulti/status/1031525847302193154のツイートであり,「a×b×c」という式も書かれています。


 最初に,以下の文章題を取り上げます。ある小学校の学習指導案が元ネタなのですが現在はデッドリンクです。

1こ90円のシュークリームが、1はこに3こずつ入っています。
2はこ買うと、代金は何円になるでしょう?

 大人モードで,代金を求める式は90×3×2=540,答え540円となります。
 このかけ算の式について,2番目の因数すなわち「3」は,かける数(乗数)にもかけられる数(被乗数)にも解釈できます。
 1箱の代金を求めてから,全部の代金を求めることにすれば,90×3×2=(90×3)×2=540となります。90×3=270,270×2=540と,分けて書くこともできます。いずれにせよ,「3」は「×3」として出現(「90」に作用*1)しており,かける数となっています。
 もう一つの解釈では,先にシュークリームの数を求めてから,全部の代金を求めることにします。90×3×2=90×(3×2)=540となります。3×2=6,90×6=540と書くこともできます。どちらも,「3×2」の中に「3」が出現しまして,かけられる数というわけです。
 2番目の因数が「かけられる数にもかける数にもなる」という,シュークリームの文章題は,以下の記事の《箱売り》の再構築です。


 また別の文章題です。オリジナルから数値を変更しています。

直径が2cmの円があります。その3倍の直径の円の円周は何cmでしょうか。
求める式と答えを書きなさい。
円周率は3.14とします。

 この問題では,式が2種類考えられます。2×3×3.14と2×3.14×3で*2,いずれにせよ計算すると18.84を得まして,答えは18.84cmです。
 「2×3×3.14」という式は,大きな円*3の直径を2×3として求め,次に円周=直径×円周率の公式を適用したものとなっています。それに対し「2×3.14×3」の式では,直径が2cmの円について,2×3.14により先に周*4の長さを求め,それから3倍することで,大きい方の円の周の長さを計算しているわけです。
 「2×3×3.14」にせよ「2×3.14×3」にせよ,「3」は「×3」としての出現(作用)であり,常にかける数です。あえて,かけられる数にしようというのなら,2×3×3.14=(2×3)×3.14とした上で,この「2×3」を1個のかけられる数と見なすのはどうでしょうか。とはいえこの場合でも,「3」は「かけられる数」ではなく,「かけられる数の一部」となります。
 2番目の因数が「かける数に限定される」という,ここまでの内容について,実際には円に限定しません。以下の記事で取りまとめてきました。


 3番目の文章題は,教科書や学力テスト,学習指導案には見かけないものです。

10円玉を次のように並べます。
⑩⑩⑩⑩
⑩⑩⑩⑩
⑩⑩⑩⑩
全部で何円ですか。

 この問題についても,式は2種類,書くことができて,10×3×4と10×4×3です。上に書いた円周の問題と同様に,3はかける数になることが言えるのですが,この場合には10×(3×4)や10×(4×3)といった式にすることもできます*5
 カッコでくくったこの3×4や4×3は,10円玉の枚数に対応します。言い換えると,10円玉が何枚あるかを求め,「10円×枚数」により,総額を求めるのです。大人モードでは,被乗数×乗数とは別のかけ算の考え方,すなわち因数×因数の一部(結局のところ因数の一つ)として,「3」が出現しているわけです。
 10×3×4の式をもとに,この「3」をかける数の一つと見なすと,10×3=30,30×4=120,答え120円となります。
 10×4×3の式をもとに,この「3」をかける数の一つと見なすと,10×4=40,40×3=120,答え120円となります。
 10×3×4の式をもとに,この「3」を因数の一つと見なすと,3×4=12,10×12=120,答え120円となります。
 10×4×3の式をもとに,この「3」を因数の一つと見なすと,4×3=12,10×12=120,答え120円となります。
 2番目の因数が「かける数または因数になる」という,この事例についての関連情報は以下の記事になります。

*1:「作用」という単語でピンとこない方は,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20151121/1448031600にアクセスして「operates on」を検索し,対応する日本語訳をご覧ください。

*2:シュークリームの問題で「90×2×3」の式は,期待されていません。もしそのように,式を立てたのなら,「90×2は何を表しますか?」と問われることになります。

*3:大小は,この問題において本質ではありません。代わりに「最初の円(基準となる円)」「円周を求めたい円」と書き分けるのでもよいでしょう。「直径がaの円があります。そのb倍の直径の円の円周を求める式を書きなさい。円周率はcとします。」に対して式a×b×cを立て,なぜその式になるのかを説明する際に,使用できます。

*4:「円周」と書いても,差し支えなかったのですが,「円の円周」については今春,記事を書いていますので:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2018/03/02/062640

*5:円周の話で「3×3.14」や「3.14×3」だけを取り出した場合,これは小さい円の直径を基準としたときの,大きい円の円周の割合と見なすことはできますが,実用性に乏しいと言わざるを得ません。

あまりのあるわり算で,九九のどの段を使えば能率的に求めることができるか

 もし、「21÷7の答えは、何のだんの九九を使ってもとめればよいですか」に「3のだん」と答えるのなら、「23÷6の答えは、何のだんの九九を使ってもとめればよいですか」には何と答えるのでしょうか。


 3年で学習するわり算の話です。48÷6=8のような,割り切れる場合のほか,13÷4=3あまり1のような,割り切れない場合も,この学年で学習します。
 わり算はかけ算と密接な関係があります。被除数・除数・商のいずれも整数で,簡単な場合には,商は九九を使用して求められます。48÷6については,6×8=48を用いて,商は8と言うことができます。13÷4を求めようとすると,13は九九の表に出現しませんが,4の段の答えのうち,13以下で最も大きい数である,12に着目すると,4×3=12により商は3,そして13-12=1であまりは1となります。
 これらについて,8×6=48や,3×4+1=13と,式に表してみると,「48÷6を求めるには,8の段を使っても求められる」「13÷4には3の段でもいい」といった主張が可能なように見えます。
 ここまでに関連して,最近出たhttps://twitter.com/sekibunnteisuu/status/1025284205918351361https://twitter.com/flute23432/status/1025400009435410433のツイート(前後も)を読み*1,自分なりに情報収集をしてみました。
 少し検索して見つかったのが,平成16年の学習指導案http://www1.iwate-ed.jp/db/db2/sid_data/es/sansu/e05sa034.pdfです。本時の問題は「色紙が23まいあります。1人に6まいずつ分けると、何人に分けられますか。また、何まいあまりますか。」です。
 とはいえこの授業で,何の段を使えばよいかといった問い方は,なされていません*2。そして「23÷6=3あまり5」をもとに,「23÷3=6あまり5」としたり,九九の3の段を参照して「3の段(を使えば求められる)」と言ったりするわけにも,いきません。3の段において,積が23以下で最も大きい数は,3×6=18ではなく,3×7=21だからです。
 最終ページには,「23÷6=3あまり5」に対するたしかめの式として,「6×3+5=23」が書かれていますが,これで6の段を使っているというよりは,1人に6まいずつ分けると,3人に分けられて5まいあまるのを,一つの式にした,と見ることもできます。これについては後述します。
 『小学校学習指導要領(平成29年度告示)解説算数編』を読み直したところ,http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387017_004.pdf#page=155に「12÷3の計算が3の段の乗法九九を用いて能率的に求めることができる。このようなことを考えることができるようにすることがねらいとなる。」が入っています。この記述は,現行と一つ前の解説には見当たりません*3
 この件,教科書に載せて授業で指導していきなさいというよりはむしろ,変わり方の「段数×4=周りの長さ」や,小数の乗法・除法における二重数直線などと同様に,授業事例や教科書が先行し,学習指導要領解説がそれに追随したものと思われます。
 あまりのあるわり算に関しては,「除数と商が1位数の場合」として「48÷6や13÷4など,乗法九九を1回用いて商を求めることができる計算である」が,次期・現行・一つ前の解説に共通して現れます。いずれも,何の段を用いるかの記載はありません。
 除数と商が1位数の場合に,「A÷Bの計算がBの段の乗法九九を用いて能率的に求めることができる」というのは,あまりのある(AがBで割り切れない)場合にもそのまま利用可能となります。それに対し,「A÷Bの商」の段の乗法九九を用いるのでは,わり算(または「A=B×商」という関係式)が入る分,能率的ではありませんし,あまりのある場合には適用できなくなるケースがある,と言うこともできます。

補足1:「23÷6」のような式は何通りあるか

 「23÷6」と同じように,九九の「商」の段を使おうとすると,うまく行かない場合を,Rubyワンライナーで求めてみました。被除数をa,除数をb,商をq,あまりをrとし,bもqも2以上9以下とします。この場合,「うまく行かない場合」は,q≦r≦b-1という不等式で表せます。そしてa=bq+rの式により,b,q,rの値に応じたaの値が算出できます。
 実行コマンドは「ruby -e '2.upto(9){|b|2.upto(9){|q|q.upto(b-1){|r|a=b*q+r;puts "#{a}÷#{b}=#{q}あまり#{r}(NG:#{a}÷#{q}=#{b}あまり#{r})"}}}'」で,出力は以下の84通りとなりました。

8÷3=2あまり2(NG:8÷2=3あまり2)
10÷4=2あまり2(NG:10÷2=4あまり2)
11÷4=2あまり3(NG:11÷2=4あまり3)
15÷4=3あまり3(NG:15÷3=4あまり3)
12÷5=2あまり2(NG:12÷2=5あまり2)
13÷5=2あまり3(NG:13÷2=5あまり3)
14÷5=2あまり4(NG:14÷2=5あまり4)
18÷5=3あまり3(NG:18÷3=5あまり3)
19÷5=3あまり4(NG:19÷3=5あまり4)
24÷5=4あまり4(NG:24÷4=5あまり4)
14÷6=2あまり2(NG:14÷2=6あまり2)
15÷6=2あまり3(NG:15÷2=6あまり3)
16÷6=2あまり4(NG:16÷2=6あまり4)
17÷6=2あまり5(NG:17÷2=6あまり5)
21÷6=3あまり3(NG:21÷3=6あまり3)
22÷6=3あまり4(NG:22÷3=6あまり4)
23÷6=3あまり5(NG:23÷3=6あまり5)
28÷6=4あまり4(NG:28÷4=6あまり4)
29÷6=4あまり5(NG:29÷4=6あまり5)
35÷6=5あまり5(NG:35÷5=6あまり5)
16÷7=2あまり2(NG:16÷2=7あまり2)
17÷7=2あまり3(NG:17÷2=7あまり3)
18÷7=2あまり4(NG:18÷2=7あまり4)
19÷7=2あまり5(NG:19÷2=7あまり5)
20÷7=2あまり6(NG:20÷2=7あまり6)
24÷7=3あまり3(NG:24÷3=7あまり3)
25÷7=3あまり4(NG:25÷3=7あまり4)
26÷7=3あまり5(NG:26÷3=7あまり5)
27÷7=3あまり6(NG:27÷3=7あまり6)
32÷7=4あまり4(NG:32÷4=7あまり4)
33÷7=4あまり5(NG:33÷4=7あまり5)
34÷7=4あまり6(NG:34÷4=7あまり6)
40÷7=5あまり5(NG:40÷5=7あまり5)
41÷7=5あまり6(NG:41÷5=7あまり6)
48÷7=6あまり6(NG:48÷6=7あまり6)
18÷8=2あまり2(NG:18÷2=8あまり2)
19÷8=2あまり3(NG:19÷2=8あまり3)
20÷8=2あまり4(NG:20÷2=8あまり4)
21÷8=2あまり5(NG:21÷2=8あまり5)
22÷8=2あまり6(NG:22÷2=8あまり6)
23÷8=2あまり7(NG:23÷2=8あまり7)
27÷8=3あまり3(NG:27÷3=8あまり3)
28÷8=3あまり4(NG:28÷3=8あまり4)
29÷8=3あまり5(NG:29÷3=8あまり5)
30÷8=3あまり6(NG:30÷3=8あまり6)
31÷8=3あまり7(NG:31÷3=8あまり7)
36÷8=4あまり4(NG:36÷4=8あまり4)
37÷8=4あまり5(NG:37÷4=8あまり5)
38÷8=4あまり6(NG:38÷4=8あまり6)
39÷8=4あまり7(NG:39÷4=8あまり7)
45÷8=5あまり5(NG:45÷5=8あまり5)
46÷8=5あまり6(NG:46÷5=8あまり6)
47÷8=5あまり7(NG:47÷5=8あまり7)
54÷8=6あまり6(NG:54÷6=8あまり6)
55÷8=6あまり7(NG:55÷6=8あまり7)
63÷8=7あまり7(NG:63÷7=8あまり7)
20÷9=2あまり2(NG:20÷2=9あまり2)
21÷9=2あまり3(NG:21÷2=9あまり3)
22÷9=2あまり4(NG:22÷2=9あまり4)
23÷9=2あまり5(NG:23÷2=9あまり5)
24÷9=2あまり6(NG:24÷2=9あまり6)
25÷9=2あまり7(NG:25÷2=9あまり7)
26÷9=2あまり8(NG:26÷2=9あまり8)
30÷9=3あまり3(NG:30÷3=9あまり3)
31÷9=3あまり4(NG:31÷3=9あまり4)
32÷9=3あまり5(NG:32÷3=9あまり5)
33÷9=3あまり6(NG:33÷3=9あまり6)
34÷9=3あまり7(NG:34÷3=9あまり7)
35÷9=3あまり8(NG:35÷3=9あまり8)
40÷9=4あまり4(NG:40÷4=9あまり4)
41÷9=4あまり5(NG:41÷4=9あまり5)
42÷9=4あまり6(NG:42÷4=9あまり6)
43÷9=4あまり7(NG:43÷4=9あまり7)
44÷9=4あまり8(NG:44÷4=9あまり8)
50÷9=5あまり5(NG:50÷5=9あまり5)
51÷9=5あまり6(NG:51÷5=9あまり6)
52÷9=5あまり7(NG:52÷5=9あまり7)
53÷9=5あまり8(NG:53÷5=9あまり8)
60÷9=6あまり6(NG:60÷6=9あまり6)
61÷9=6あまり7(NG:61÷6=9あまり7)
62÷9=6あまり8(NG:62÷6=9あまり8)
70÷9=7あまり7(NG:70÷7=9あまり7)
71÷9=7あまり8(NG:71÷7=9あまり8)
80÷9=8あまり8(NG:80÷8=9あまり8)

 被除数で並べ替えてみると,「23÷」から始まるものは,「23÷6=3あまり5」「23÷8=2あまり7」「23÷9=2あまり5」の3通りがあります*4。「18÷」と「24÷」までについて,それぞれ3通りの式が得られます。

補足2:あまりのある包含除・等分除とかけ算の順序

 平成16年の学習指導案におけるたしかめの式「6×3+5=23」について,かけ算の順序と関連する話があるので,以下で整理しておきます。
 「6×3+5=23」の式については,3要素2段階の場面*5と見なして立てたというほか,「(除数)×(商)+(あまり)=(被除数)」に当てはめて、たしかめをしたと考えることもできます。なお,(解説のつかない)学習指導要領に書かれている関係式は,http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/san.htm#4gakunenより見ることができ,「(被除数)=(除数)×(商)+(余り)」となっています。
 ともあれ包含除の場合,それら2通りの考え方で,式が一致します。
 それに対し,「色紙が23枚あります。6人に同じ数ずつ分けると,何人に分けられますか。また,何まいあまりますか」という,あまりのある等分除を考えてみると,わり算の式は23÷6=3あまり5で変わらないのですが,たしかめの式は,6×3+5=23だけでなく,3要素2段階の場面とすると,3×6+5=23も認めてよいのではとなります。
 包含除だから1通りで等分除になると2通りになるのは,「(除数)×(商)+(あまり)=(被除数)」を採用していることも,影響しています。代わりに「(商)×(除数)+(あまり)=(被除数)」を採用すれば,(あまりのある)等分除に対応する,かけ算・たし算の式が1通りで,包含除のほうが2通りとなります。
 「(除数)×(商)+(あまり)=(被除数)」あるいは「(被除数)=(除数)×(商)+(余り)」あるいはa=bq+rでも,「(被除数)=(商)×(除数)+(余り)」あるいは「(商)×(除数)+(あまり)=(被除数)」あるいはa=bq+rでも,よいのではないかとすると,包含除・等分除を問わず,2通りの式が得られます。

補足3:除数の段を用いない方略について〔2019年7月19日追記〕

 https://twitter.com/LimgTW/status/1151908343994126336を見ました。
 28÷8を求める際に,九九の中から,因数として8を持ち,かつ積が28以下となる,かけ算の式を,8の段以外で探すとなった場合には,3の段の「3×8=24」だけでは不十分であり,その前後の段を見て,それらが不適であることを確認する必要があります*6。2の段の「2×8=16」では,あまり(28-16=12)がわる数以上となり,4の段の「4×8=32」では,割られる数の28を超えてしまうのを,把握することが,「探索」のプロセスに含まれます。
 このように考えると,「28÷8は,何のだんの九九を使ってもとめればよいですか。」と問いを立てたとき,その答えとして「3のだん」は,許容できるように思えません。
 それに対し,8の段に着目すると,8×2=16や8×4=32は8の段に含まれています。他の数で考えてみても,除数の段を用いる方略は,「九九1回適用の除法計算」で「あまりなし」「あまりあり」のいずれにも利用可能なのが分かります。
 a÷bを求めるのに使用する九九の段に関して,「因数としてbを持ち,かつ積がa以下となるものを探す」という方略で,\lfloor\frac{a}{b}\rfloorの段が答えとなるというのは,十分性・能率性のいずれの観点からも,賛同できません。

*1:歴史的にはhttps://twitter.com/vecchio_ciao/status/466752273163362304https://twitter.com/genkuroki/status/819064167361458177も重要と思われます。

*2:PDFで読むことのできる学習指導案のいくつかには,「九九1回適用の除法計算(あまりあり)」と記載されていました。

*3:「能率的」という語に関しては,現行および次期の(解説のつかない)小学校学習指導要領の算数で,各学年の目標および内容のあと,「指導内容の作成と内容の取扱い」の中に,出現します。解説のPDFファイルで機械的に検索すると,次期のほうが「能率的」の出現回数が多くなっています。

*4:「23÷7=3あまり2」については,3×7=21と23-21=2でも,うまく行くため,除外されます。

*5:http://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/03/page3_05.html

*6:「1×8=8,2×8=16,3×8=24,4×8=32」と,わり算の式のわる数を,かける数として固定し,九九の1の段から見ていくという手続きも考えられますが,これも,探索の対象は「3の段」だけではありません。

2018/08/02に公開の動画


 7分強の動画を,勝手ながら要約すると,「『りんご,みかん,バナナ,ぶどうが3つずつ。全部で果物は何個』に対する式として,学校では3×4だけを正解とし4×3は間違いとするだろうが,アレイやトランプ配りを使えば,4×3でも正解になる」といったところでしょうか。
 文章題に対し,アレイを用いることについては,以前にスライドを作っていました.「算数教育において認められていない(世界的に見ても,SMSGの主張が衰退した)」というのが,国内外の文献をもとにして得られる知見となります。
f:id:takehikoMultiply:20170524062102j:plain
 この画像はhttps://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/64からも見ることができます。
 アレイを「立式の根拠」ではなく「式で表す場面」として使用することについては,実例があります。例えばhttp://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1387017_4_3.pdf#page=53より見ることのできる画像のうち,下のものについて,「3×4,又は4×3と式で表すことができる」となっていることが関連します(上の写真について,式は「4×3」のみが記載され「3×4」が書かれていないのと,対照的です)。
 トランプ配りについては,一つは,これまで等分除の操作としてわり算の学習で活用されており(かけ算では想定されていない),もう一つは,かけ算の場面へのトランプ配りの適用(配慮)が,昨年公開の『小学校学習指導要領解説算数編』に記載されたので,再来年度からの教科書がどうなるか見たい,といった認識を持っています。メインブログと当ブログで以前に書いた記事にリンクしておきます。

 ところで,「かけ算の順序」批判の動画を見るのは,2017/09/09に公開の動画以来となります。バナナを「~個」で数えるのには抵抗がありますし,ぶどう「1個」が1房なのか1粒なのか曖昧ですので,そういったことも合わせて,「りんご,みかん,バナナ,ぶどうが3つずつ。全部で果物は何個」を,2年のかけ算の文章題で問うのは適切ではないようにも思っています。https://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/60が,関連するところでしょうか。

三用法は,掛算順序自由と両立するのか

 このアカウントの方(@Goto_Manabu)の情報を少し調べてみました。氏名と所属(後藤学 相模女子大学)から,http://www.sagami-wu.ac.jp/faculty/arts_sciences/edu/teacher/details/goto_manabu.htmlを見つけました。平成27年度から使用の算数教科書のうち,学校図書(みんなと学ぶ 小学校 算数)の著作者に名前が入っていました。
 次に,http://manabugoto.info/にもアクセスしました。現時点で最新の記事はhttp://manabugoto.info/?p=1213で,その中に「私の師匠である,玉川大学の守屋誠司教授」とあります。昨年の記事http://manabugoto.info/?p=933では,「杜威先生と昼食でご一緒し」たことが書かれています。
 かけ算の順序をウォッチしている者としては,この2件で,ぎょっとなります。「玉川大学の守屋誠司教授」で連想するのは,『小学校指導法 算数』です。編者であるとともに,「第2学年や第3学年では、読み取った数を、「1つ分の数×いくつ分=全体の数」と表現できることが重要であり、逆に、この立式ができているかで、数の読み取りができているかを判断できる。」(p.92)や「「子どもが7人います。1人に4個ずつアメをくばります。アメはみんなで何こいりますか」という問題に対して、7×4=28答え28こ、と解答した小学校2年生の子がいました。この解答をどのように解釈して、どのような対応をしたらよいか、乗法の意味と関連させてまとめてみましょう。」(p.96)を含む第5章の執筆者でもあります。
 「杜威先生」というと,中国における乗法の導入の状況を,http://www.nier.go.jp/seika_kaihatsu_2/risu-2-310_s-china.pdf#page=9より読むことができます。画像の下には「乗法を最初から // 因数×因数=積 で学習する」とあるほか,本文の「これについて現場の授業等を観察したことがある。この処理は数計算の場合大きな差支えがないかもしれないが,量の扱いではやはり不具合があって,教師たちの丁寧な対応によって乗り越えているところである。」という記述が,特徴的です*1
 さて,https://researchmap.jp/mgoto2015/から,後藤氏の著書の一つに,『小学校算数』があるのを知りました。本棚にありました。

小学校算数 (教科力シリーズ)

小学校算数 (教科力シリーズ)

 さっそく開いて,読んでみました。後藤氏の執筆分担は,第5章と第6章で,章題はそれぞれ「量と測定1(基本的な量)」「量と測定2(複合的な量)」です。一通り読み直して,こういうのが算数教育の専門家の書いた文章なのだと感銘を受けました。「同じ道を,行きは60km/時,帰りは40km/時で行けば,全体では時速何kmになるか」をベクトル和で表現して計算する話(p.62)は,速さと分数のかけ算・わり算の組み合わせとして,小学校の授業でも使えるかもしれません。
 2つの章を読んで気になったことも書いておきます。「一般道路で車の移動時間を調べ時速を計算した活動」(p.75)について,手順を箇条書きにし,100mの移動時間を秒単位で20個,並べたのはいいのですが,その後の「車が100m進むのに9.3秒かかった」から車の平均時速を求めるのには,まったく使われていません。割合に関連して,p.80にある「判断量」は馴染みではなく「比較量」のことではないかと思いますし,同じページの「鈴木君の読んだ本は本全体の70%で210ページであった。本全体は何ページか」において基準量は一意に定まらない(210×□=○と,2つの数が(当初は)未知とする式を立ててもいいのではないか)と思いました。
 「割合の3用法」について,3つの式には同意するのですが,学び方・活用方法については,個人的な理解と異なっています.というのも,p.77で以下のように書かれています。

(5) 割合の3用法
 割合についての計算は次の3つの式にまとめられる。
  ①p=A÷B (第1用法) 割合を求める
  ②A=B×p (第2用法) 比べる量を求める
  ③B=A÷p (第3用法) もとになる量を求める
 割合の定義である①の第1用法をきちんと理解させ,第2,第3用法は□を使った式を用いて未知数として,代数的に計算させて解くことを目標とする。児童には第2,第3用法までも記憶させるのではなく,第1用法をもとに式変形させるのである。

 学び方・活用方法についてですが,第3用法は,第1用法からではなく,第2用法をもとにするほうが,使いやすいはずです。例えばhttp://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/05/page5_23.htmlを見ると,割合の第3用法すなわち「もとにする量を求める」文章題では,鉛筆キャラの吹き出しから「□×1.6=24」という式がイメージできるのです。
 この記事のタイトルにした「三用法は,掛算順序自由と両立するのか」については,問題意識を簡単に書くにとどめます。掛算順序自由(掛算順序強制批判)の発展形として,除法の意味が包含除と等分除に分かれることへの批判があります*2。包含除と等分除,第1用法と第3用法を,同一視できるのであれば,三用法ではなく二用法で済みます。あるいはかけ算について,「A=B×p」でも「A=p×B」でもよいとすれば,4つの式になります。これらへの答えを提示する中で,これまでの算数教育の規範や学校現場でなされている指導,そして論文・書籍で書かれた内容に対し,見直しが生じてくるのかもしれません。

*1:https://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/51, https://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/70

*2:本記事作成中にhttps://twitter.com/Goto_Manabu/status/1023473104595480576を見ました。もうしばらく,ツイートの伸びをウォッチする必要もありそうです。

整数の乗法で直積を取り上げるなら,面積ではなくアレイ

  • 鈴木将史(編著), 小学校算数科教育法, 建帛社 (2018).

小学校算数科教育法

小学校算数科教育法

 まえがきには,「2017(平成29)年3月に小学校の学習指導要領が改訂されたのに合わせ,従来の『小学校算数科の指導』を全面的に見直し,新たに『小学校算数科教育法』として刊行することとなった」と記されています。『小学校算数科の指導』はisbn:9784767920931で,本棚にありましたので開いて見ると,執筆者の一人に,今回の編著者の名前がありました。
 『小学校算数科教育法』で「乗法の意味」の解説をp.39から読むことができます(第3章 「A 数と計算」の指導 / 4. 整数の乗法と除法の指導)。「乗法の意味には次の3つの型がある」とし,① 1つ分の大きさのいくつ分(同数累加),② 何倍(倍写像型),③ 直積型を挙げています。直積型と立式(かけ算の順序関連)の文章が興味深かったので書き出します(pp.39-40)。

 ③ 直積型
 この型の乗法は,量と量の積(関係づけ)によって,新しい量を生み出す。例えば,長さと長さをかけて,長さとは全く別の面積という新しい量ができる(図番号は引用にあたり省略)。
 乗法の立式について,実際の指導では,乗法の演算の意味を深めるために,かけられる数とかける数の順に立式する。その主意は,問題に出てくる数の,何が1つ分の大きさで何がいくつ分であるかをしっかりと読み取らせることにある。この順の立式ができているかどうかで,数の読み取りができているかを判断することができるからである。ただし,③の直積型においては,そのかぎりではない。

 上記のいくつかについて,関連情報を見ておきます。まず「かけられる数とかける数の順に立式する」については,昨年公開の『小学校学習指導要領解説算数編』に取り入れられた「被乗数と乗数の順序」*1を噛み砕いたものであるとともに,これまでの教科書などの記載や学校現場での指導に基づくものと推測できます。「1つ分の大きさ」の表記も,『小学校学習指導要領解説算数編』の影響と思われます*2。算数の教科書では「1つ分の数」だなあと思いながら,『小学校算数科教育法』を読み直すと,p.39の図3-12には「1つぶんの数」と書かれていました。
 「この順の立式ができているかどうかで,数の読み取りができているかを判断することができるからである」で連想するのは,『小学校指導法』(isbn:9784472404221)の「第2学年や第3学年では、読み取った数を、「1つ分の数×いくつ分=全体の数」と表現できることが重要であり、逆に、この立式ができているかで、数の読み取りができているかを判断できる」(p.92)です。この本は,『小学校算数科教育法』巻末の参考文献に記載されていました。
 その一方で,直積型の説明には不満を感じました。整数の乗法という文脈で,直積を取り上げるのなら,面積ではなく,アレイについて言及すべきところです。『小学校学習指導要領解説算数編』では,「●」の文字を用いたアレイの配置と,かけ算の式とを結びつけています。そのほか掲示物の並びに対して「3×4,又は4×3と式で表すことができる」としている件が該当します*3
 そしてアレイの面積と異なる特徴として,かけられる数もかける数も,積も,同種の量と解釈できる*4点が挙げられます。この特徴を持つかけ算は,小学校算数に限った話ではなく,高校数学の,場合の数の積の法則(例えば「4通り×3通り=12通り」)も該当します。
 アレイは,(「解説」のつかない)小学校学習指導要領の算数に書かれている,「一つの数をほかの数の積としてみる」を学習するのに適していますし,3年に上がると,「10が2つで20」と「2を10倍すると20」を,図や,具体物による操作で表す際に有用となります。そして4年の長方形の面積について,単位正方形の個数をもとに「縦×横」または「横×縦」という式を導くのにも,活用されます。
 『小学校算数科の指導』で,整数の乗法の意味のところを見ると(pp.68-70),「何の いくつ分」と「何の 何倍」の2つだけであり,直積型については記載がありませんでした*5。該当箇所の著者も異なっています。
 解説書は学習事項のすべてを網羅できないことに留意しながら,精読していくしかないのでしょうか。このことに関連して,『小学校算数科教育法』では奇数と偶数,倍数と約数といった整数に関する解説が見当たりませんでした。倍数・約数の扱いやその応用について,『算数教育のための数学』(isbn:9784563012175)を手に入れ読み始めたところです。

*1:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2017/06/28/054525

*2:なのですがp.39の「(1つ分の大きさ)×(いくつ分)=(全体量)」という言葉の式には,残念に思っています。この書き方では,かけられる数と積が同じ種類の量になることを,表現できていません。それに対し『小学校学習指導要領解説算数編』では,「乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる」とあり,かけられる数と積が同じ種類の量になることを読み取ることができます。

*3:3本の串に4個ずつ団子が刺さっている場面の式が「4×3」のみであるのと対照的です。

*4:掲示物の並びについて「3段×4列=12枚」や「4枚/段×3段=12枚」と解釈することも---実際に授業でそのように単位を添えて書くかは別として---可能です。

*5:その一方で,「かける数とかけられる数が入れ替えた問題」(基準量が後に示された問題)の解説があるのに対し,『小学校算数科教育法』には見当たりません。