かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

トランプ配りの乗法への適用~書籍から

以下の画像は,トランプ配りをすれば「5×3=15」になることを示したGIFアニメーションである.

かけ算の順序論争について(日本語版)

2×3? 3×2? どっちでもいい? ~配る問題,かけ算の順序~

「一つ分の大きさ×いくつ分=全体の大きさ」に立ち返ります.この式(乗法)と,包含除・等分除に対して,トランプ配りを用いて視覚化・手順化を試みている事例が豊富にあります.そこで以下のとおり,名称をつけておきます.

  • トランプ配りの乗法への適用:トランプを配る操作により,「一つ分の大きさ×いくつ分=全体の大きさ」を視覚化・手順化すること
  • トランプ配りの包含除への適用:トランプを配る操作により,「全体の大きさ÷一つ分の大きさ=いくつ分」を視覚化・手順化すること
  • トランプ配りの等分除への適用:トランプを配る操作により,「全体の大きさ÷いくつ分=一つ分の大きさ」を視覚化・手順化すること

文脈から明らかなときは「トランプ配りの」を取り除きます.この3種類の中で,事例として最も多いのは,等分除への適用です.しかし乗法への適用,包含除への適用についても,見るべき記述があります.

わり算,包含除・等分除,トランプ配り (2016.05)

 以下では,「トランプ配りの乗法への適用」を記した書籍を取り上げ,該当箇所を紹介します。

矢野健太郎『おかしなおかしな数学者たち』(1984年)

おかしなおかしな数学者たち (新潮文庫)

おかしなおかしな数学者たち (新潮文庫)

 もう大分前のことになると思うが、あるとき私の所へ、名古屋から電話がかかってきた。そしてその電話の主はつぎの話を私にした。
「名古屋のある小学校で、算数の試験につぎの問題が出た。
 ミカンを4つずつ6人の人に配りたいと思う。ミカンは全部でいくつあればよいか。
 この問題に対して、大部分の子どもは、
   4×6=24
 個と答えたが、なかに一人、
   6×4=24
 と答えた子があったが、先生はこれを0点にしてしまった。
(p.119)

 しかし、1人に4つずつのミカンを6人に配るのにつぎのような方法もある。
まずミカンを1個ずつ6人全部に配る。つぎにまたミカン1個ずつを6人全部に配る。このことを4回くり返せば、ミカンを1人に4個ずつ、6人の人に配ったことになる。このことを図にかいてみると左のようになる。
(図省略)
 もしこう考えたとすれば、1人に4個ずつ6人の人に配るのに必要なミカンの個数は、6のかたまりが4つあることから、
   6×4=24
 と答えるのが自然ということになるであろう。
(pp.122-123)

坪田耕三『おもしろ発見!九九の授業づくり』(1994年)

おもしろ発見!九九の授業づくり

おもしろ発見!九九の授業づくり

問題①

子どもが6人います。
それぞれの子どもに5本ずつえんぴつをくばります。
えんぴつは,ぜんぶで何本いりますか。

(略)
「①は,6×5となるよ。」
「そうじゃあないよ。これは5×6だよ。」
 2つの式が出てきてしまった。そこで,この2つの式について,両者の意見を言わせる。
 まずは前者の立場の子どもの意見である。
「はじめに『6』が出ているから,数の順に式にしたんです。」
「5×6の式にすると,問題の文と違ってしまいます。」
「6人というのは,配る鉛筆の数にみてもいいんじゃないですか。」
 はじめの2人は,問題文に出てくる数字の順に式に表すのがいいと思っているのである。
 3番目の意見は,好意的に解釈すれば,6人の子どもに1本ずつ配って1回目を終え,続いて同じように6本を2回目,さらに6本を3回目……と続けて,5回繰り返すと考えるならば,6が5回分ということになる。
 しかし,この子どもの考えは,これだけの言葉の表現では,他の子どもには説得力はなかった。
 続いて,こんどは5×6の意見の発表である。(以下略)
(pp.40-42)

小原豊『授業に役立つ算数教科書の数学的背景』(2013年)

授業に役立つ算数教科書の数学的背景

授業に役立つ算数教科書の数学的背景

 第2に,既習内容や発展内容に高い見通しをもつことで,子どもの問題解決上の気づきをより的確に評価できることです。例えば,「3人の友だちにみかんを4こずつあげます。みかんは全部でいくついりますか」という問題に対して,田中さんは3×4=12,鈴木さんは4×3=12と立式して答えを求めたとします。これを“みかん4こが3人分必要”だから,田中さんは誤っていると評価することも,3×4=4×3だからどちらも正しいと演算の交換法則を式解釈に持ち込んで評価することも早計といえます。
 算数・数学の問題解決を乗法構造という立場から特徴づけて捉えるベルニョの見解によれば,鈴木さんの立式からは,友達1人と3人の間と,みかん4こと□この間に同じ関係を認めており,いわゆる倍操作を行っています。これに対して,田中さんの立式からは,友達1人とみかん4この間,友達3人とみかん□この間に同じ関係を認めており,いわゆる関数的な操作を行っています。もし田中さんが「3人の友達にみかんを1つずつあげれば,みかんは3ついる。これを4回繰り返せばいい」と関数的に考えていた場合,式は3×4となり,正しい立式として評価することができます。
(pp.9-10)

坪田耕三『算数科 授業づくりの基礎・基本』(2014年)

算数科 授業づくりの基礎・基本

算数科 授業づくりの基礎・基本

チューリップがたくさんありました。
子どもが7人います。
そこで,このチューリップを3本ずつくばったら,ちょうどなくなりました。
チューリップは何本あったのでしょう。

すると,必ず文章に登場する数の順に式を書く(ア)のような子が現れる。
(ア)7×3 (イ)3×7
こんな二つの式が登場して議論になる。こんなときは,図が生きる。(略)
もしも,「7×3」の式に意味をこじつけようとするならば,まずは7人の人に1本ずつチューリップを配り,次のもう1本ずつを配り,さらに3度目として1本ずつを配ると,都合3回で配り終わるので,1回に配る数をひとかたまりと考えて,「7×3」とできる。このように説明できる子がいれば,それはそれでたいしたものである。だが,素直に問題を読めば,「3本ずつ配る」と書いてあるので,さきのように解釈すべきであろう。
(p.60)

一松信『数の世界』(2015年)

数の世界 (サイエンス・パレット)

数の世界 (サイエンス・パレット)

 ところで乗法に関するこれらの諸法則は,加法の場合ほど自明とは思われません.以下普通によくある説明を試みます.
 交換法則は図1.8のように縦横に整然と並べた方形配列を考え,縦横どちらもそれぞれの並びごとに数えてまとめれば総数は同じと説明します.しかし単位にこだわって例えばみかんを3人に1人2個ずつ配る総数の計算で,2個×3=6個を正解とし,3×2を誤りとする先生が多いというのが気になります.3人にまず1個ずつ配り,それを2回反復したと考えれば3×2=6個で正しいでしょう.これは交換法則2×3=3×2の説明にもなると思います.
 第5章で述べるように今日の専門の数学ではa×bとb×aが等しくない「交換法則が成立しない乗法」が普遍的ですが,小学校の段階からそれを意識しすぎるのは疑問でしょう.

文部科学省『小学校学習指導要領解説(平成29年告示)算数編』(2018年)

 乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。
 例えば,「1皿に5個ずつ入ったみかんの4皿分の個数」を求めることについて式で表現することを考える。
(図省略)
 「5個のまとまり」の4皿分を加法で表現する場合,5+5+5+5と表現することができる。また,各々の皿から1個ずつ数えると,1回の操作で4個数えることができ,全てのみかんを数えるために5回の操作が必要であることから,4+4+4+4+4という表現も可能ではある。しかし,5個のまとまりをそのまま書き表す方が自然である。そこで,「1皿に5個ずつ入ったみかんの4皿分の個数」を乗法を用いて表そうとして,一つ分の大きさである5を先に書く場合5×4と表す。このように乗法は,同じ数を何回も加える加法,すなわち累加の簡潔な表現とも捉えることができる。言い換えると,(一つ分の大きさ)×(幾つ分)=(幾つ分かに当たる大きさ)と捉えることができる。
(pp.114-115)

所感

 次期『小学校学習指導要領解説算数編』(以下「解説」)に,トランプ配りの乗法への適用が入ったのは,一松信『数の世界』の記載が多少なりとも影響したと考えています。
 しかしながら「解説」では,「1皿に5個ずつ入ったみかんの4皿分の個数」に対し,4×5の式を認める記述にしていません。「解説」の中でその根拠を探ると,p.115の「具体物を用いた表現などと関連付けながら,式の意味の理解を深めるとともに,記号×を用いた式の簡潔さや明瞭さを味わうことができるようにする。」や「上で述べた被乗数と乗数の順序が,この場面の表現において本質的な役割を果たしていることに注意が必要である。」を挙げることができます。
 「1皿に5個ずつ入ったみかんの4皿分の個数」を,(一つ分の大きさ)×(幾つ分)=(幾つ分かに当たる大きさ)に当てはめると,5×4=20であり,「1皿に4個ずつ入ったみかんの5皿分の個数」に対する式は,4×5=20と書けばよい(書き分けられることに意義がある),というわけです。
 「解説」からの引用箇所と類似した流れで,トランプ配りを考慮した上で,方針を一つに定め,一つの式にしようというのが,2011年に発行された『活用力・思考力・表現力を育てる!365日の算数学習指導案 1・2年編』*1に見られます。2年のかけ算ではなく,1年の「具体物をまとめて数える」の授業例です(したがって,「乗法学習の素地」となりますが,「乗法への適用」と言うわけにはいきません)。そこでの方針は「置いた結果に着目させる」であり,https://www.slideshare.net/takehikom/23-32-123835241/37でも引用しています。

「割合」指導

  • 山下英俊, 算数教育研究チーム「ベクトル」: 「割合」指導の3つの方略, 東洋館出版 (2018). isbn:9784491036045

 さきに,この本を読んで有用と感じたところを挙げておきます。「数直線」の図について,p.95以降の児童が作成したものを見ると,算数の教科書で多用されるいわゆる二重数直線に限らず,さまざまな描かれ方を見ることができます。
 たとえば比較的後ろのp.106では,1本の直線の上に「180m」,下に「8秒」を書いた数直線と,同様に「125m」「8m」を書いた数直線が,横並びになっています。
 0を揃えない,そのような図でもOKというのです。
 問題場面としては,200mを10秒で走るカンガルー,180mを8秒で走るダチョウ,125mを8秒で走るキリンとの間で,どの動物がいちばん速いかを調べるという学習です。道のりと時間による二重数直線を用いて描いたとき,異なる動物のあいだで0に揃えて縦並びにしたとしても,道のりと時間のどちらか一方が揃えられません(多くの図では時間を合わせて,道のりは,同じ位置でも動物ごとに異なる値をとっています)。その煩わしさから解放されるという観点では,横並び数直線も,意味のある思考活動であるように思えてきます。
 それはそれとして,この本を通して読んだとき,まっさきに気になるのは,書名と授業内容との乖離です。上で述べた「速さくらべ」は,割合というよりは単位量当たりの大きさに関する内容です。
 読み直すと,指導を通じて子どもたちに理解してほしい「割合」の概念はどのようなものであるかについて,答えとなりそうな情報が見当たりません。
 全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)や国内外の論文を通じて,割合や,小数のかけ算・わり算(整数÷整数=小数を含む)の演算の決定に課題があることが知られています。たとえば今年度の全国学力テストの算数Aには「集まった子どもたち200人のうち80人が小学生でした。小学生の人数は,集まった子どもたちの人数の何%ですか」という問題に対し,2.5%を選ぶ誤答が4分の1を超えています*1。大きい数から小さい数を割るという間違いを念頭に置いた出題例には,「8mの重さが4kgの棒があります。この棒の1mの重さは何kgですか。求める式と答えを書きましょう。」や"15 friends together brought 5 kg of cookies. How mush did each one get?"などがあります*2
 『「割合」指導の3つの方略』の速さくらべ授業に立ち返ると,秒速(1秒あたりに進む道のり),または決まった時間を進む道のりを動物ごとに求めて,比較するという求め方を見ることはできますが,1m,または決まった長さの道のりを進むのに要する時間を求めて比較するという求め方は,出現しません。そのような方略が期待されていない,数値の設定となっています。
 ところでこの本では,割合を学習する5・6年だけでなく,1年生のうちからその素地となることを,解説しています。その解説の出だしとなる以下の文章にも,違和感を覚えました(p.29)。

 特にかけ算、わり算は、単位量のいくつ分といった「倍の考え」を中心概念とする演算です。ただ、それらには「一皿に入っているリンゴが3個のとき、4皿分のリンゴの数はいくつ?」のように「一単位の大きさと、いくつ分の大きさ」が皿とリンゴという異なる2つの数量である場合と、「1本のテープの長さが5センチメートルのとき、3本分のテープの長さは?」のように「単位の大きさと、いくつ分の大きさ」が同じ長さどうしを対象とする同種の2つの量の場合があります。この2つは、整数から小数へ、さらに分数への数の拡張にともなって前者が混み具合や速さなどの単位量あたりの大きさに着目したかけ算、わり算の意味の拡張へ、後者は全体量Aを1とみたときのもう一方の同種の量Bの相対的な大きさ(割合)に着目したかけ算、わり算の意味の拡張へと発展していきます。これが、かけ算、わり算の意味から割合に迫る倍概念の筋道です。この筋道がかけ算・わり算のストーリーです。

 この引用のとおり,「単位量あたりの大きさ」と「割合」とを区別するのであれば,速さくらべは,「割合」指導として適切なのかという問題意識を,改めて持つことができます。
 それよりも,違和感があったのは,「一皿に入っているリンゴが3個のとき、4皿分のリンゴの数はいくつ?」と「1本のテープの長さが5センチメートルのとき、3本分のテープの長さは?」との区別のところです。前者から「皿とリンゴという異なる2つの数量」を見いだすのであれば,後者についても「テープの長さと本数」という,異なる2つの数量を考えても,不自然ではないのです。
 3年のわり算の導入(pp.34-36)では,等分除と,包含除と,倍を求めるわり算とを区別しています。倍を求めるわり算の問題例として,p.36に「赤いロープは21mです。青いロープは3mです。赤いロープは,青いロープの何倍ですか。」が書かれていますが,これをアレンジして「赤いロープは21mです。赤いテープは,青いロープの7倍の長さです。青いロープの長さは何mですか。」としてみると,倍を求めるわり算ではありませんし,等分除に入れるわけにもいきません*3
 同書を離れて個人的な理解を述べておきます。倍概念や割合の概念は,B×p=Aとして定式化できる,AとBが同種の量のかけ算の場面*4が土台となります。ここで,「何倍か」や「割合」に該当するpは,「200人の40%は80人」における40%(または0.4)のような無次元量に限らず,上述のリンゴの文章題であれば「4」,テープの文章題であれば「3」のように,「4皿」「3本」という具体量のうち数の部分も該当します*5。このかけ算の式(一つの乗法構造と言ってもいいでしょう)に当てはまるのなら,リンゴの文章題でもテープの文章題でも,百分率でも速さでも重さでも,統一的に図や式に表して,未知の数量を求めることができます。求めるための古典的な道具立てが「比(割合)の三用法」であり,近年では「数直線(とくに二重数直線)」が採用されています。
 倍概念と包含除,そして割合との関連付けに関しては,次期『小学校学習指導要領解説算数編』の第4学年,p.228が分かりやすいです。

 このような学習過程を経ることで,倍を表す数に小数を用いてもよいと,倍の意味の拡張を図る。これまで倍は「幾つ分」と捉えてきたが,ここからは,「基準量を1とみたときに幾つに当たるか」を倍の意味と捉え直す。
 このとき,倍の意味を広げる活動とともに,倍を求める除法の意味についても捉え直す機会になる。包含除の除法の意味について,a÷bを「aはbの幾つ分かを求める計算」と捉えていたものを,「bを1とみたときにaが(小数も含めて)幾つに当たるかを求める計算」と捉え直すことになる。
 このような学習は,第5学年の小数の乗法及び除法の計算や,割合の学習につながる大切な学習である。

*1:http://www.nier.go.jp/18chousakekkahoukoku/index.html

*2:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2017/12/31/234127

*3:個人的な認識では,これは等分除で求められる場面となります。「赤いロープは21mです。青いロープは3mです。赤いロープは,青いロープの何倍ですか。」は,包含除です。

*4:BはBaseの頭文字で基準量,pはproportionの頭文字で割合,AはAmountの頭文字で総量を,それぞれ意味します。

*5:「4皿」「3本」そのものがpになるのではない点に注意。関連:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2018/04/08/061135

交錯

 「かけ算の単元でかけ算ばかりするから,子どもたちはきちんと考えずにかけ算の式にしてしまう。すでに学んだ,たし算・ひき算も混ぜて指導すればいい」という主張を支える事例をいくつか取り上げます。
 「指導」について,「文章題を与えて,学習者は適切に演算決定(立式)できること」を目指す場合,その文章題には大きく2つのパターンがあります。一つは,複数の文章題を用意して,すべて解いてもらうのですが,ある文章題はa×b,別の文章題はa+bの形で式にするのが正解とします。もう一つは,1個の文章題で正解となる答えを得るのに,かけ算と,たし算・ひき算を組み合わせます。
 「ある文章題はa×b,別の文章題はa+b」の出題例は,1皿ずつ全部かけ算とはかぎらないよで紹介しています。前者は2013年公開の紀要論文,後者は2010年刊の問題集からです。
 たし算の文章題を,それぞれの出典から取り出すと,「アメが4このった皿と6このった皿が1皿ずつあります。全部で何こありますか。」と「おかしが3こ入った箱と4こ入った箱が,1箱ずつあります。おかしは,全部で何こありますか。」です。どちらにも「ずつ」が出現しますが,かけられる数を意味するものではありません(紀要論文ではこの「ずつ」について,「お皿の枚数といういくつ分を示す乗数を修飾している」と記しています)。2つの情報源について引用・被引用の関係はありません。かけ算学習の段階で,たし算の場面にも「ずつ」を意図的に入れることは,それぞれの問題作成や認知カウンセリングおいて,すでに知られていたと考えられます。
 「ある文章題はa×b,別の文章題はa+b」と同じ趣旨が,大正9年1920年)刊の『尋常小学算術書之教授 第二学年二・三学期用』*1にも書かれています。4の掛算の九九の,「教授上の注意」の2番目です(p.21,コマ番号33)。

2. 既に授けた九九をも適宜塩梅して練習を怠ってはならぬ。又加減の問題をも交錯して練習するがよい。或時期は加法或時期は減法此期間は乗法と単進的取扱に偏することは練習としては有効なものではない。

 ただしその前後を読んでも,かけ算の練習の中に,a+bで求める問題は見当たりませんでした。この本は『尋常小学算術書』(教科書)の解説という位置づけということもあり,その種の出題を入れたところで,解説する必要はない(またはその意義は上記の注意で十分),と思えばいいのでしょうか。ちなみに国立国会図書館デジタルコレクションで「尋常小学算術書」を検索すると,そこそこの件数が得られますが,第二学年を対象とし,今回の本と刊行時期に合致するものは,見つかりませんでした。
 かわりに,かけ算とひき算を組み合わせて答えを求めることのできる,1個の文章題が例示されていました。「教科書の応用問題中「御宮の前に大木があったから長さ二間の縄で其の周をとって見たら縄が1尺余りました此の木の周は何丈何尺ありますか」は提出に余程工夫を要する様に思われる。」(p.30,コマ番号38)から始まり,やや批判的な文章となっています。
 「御宮の前に大木が…」の問題を,いまのアプローチで解くと,次のようになります。1間=6尺,そして1丈=10尺*2に注意すると,式は6×2=12 12-1=11と書きます。「11尺」と言いたいところですが,「何丈何尺ありますか」なので,「1丈1尺」が答えとなります。
 「1尺余りました」だからたし算(12+1=13),とするわけにもいきません。ただし,加法逆の減法ととらえれば,□+1=12という式を立ててここから□=11とすることは可能です。ということで,かけ算と,ひき算(またはたし算)を組み合わせて,答えを得るものとなっています。
 かけ算の学習中なので,かけ算と,たし算・ひき算の組み合わせになりますが,そういった縛りを外せば,この種の文章題について,「3要素2段階」という名称が知られています。啓林館の教科書では以下のページのとおり,2年で学習します*3


 「かけ算の単元でかけ算ばかりするから,子どもたちはきちんと考えずにかけ算の式にしてしまう。すでに学んだ,たし算・ひき算も混ぜて指導すればいい」については,かけ算を含む算数教育が十分でないという,批判的な意図として,Twitterでときおり見かけます。
 本記事の主旨は,それらへの批判では(賛同でも)なく,批判ツイートをきっかけに得ることのできた,算数教育に携わる方による問題意識の紹介となります。把握している最古は,上で引用した「又加減の問題をも交錯して練習するがよい。」を含む注意事項ですが,比較的新しく,かつ「かけ算の順序」批判よりも前*4に書かれたものとして,全部かけ算とはかぎらないよで紹介した『田中博史の算数授業のつくり方』の文章があります。
 メッセージの新しさ古さもさることながら,それぞれの主張を支える事例(文章題や指導など)が添えられているかに着目するとともに,主張と事例の組み合わせをどのように理解すればよいかをよく考えるようにし,これからも「昔話」探しをしていきます。

*1:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/938814/, http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20170218/1487362280

*2:http://kurashikata.jp/home/shakkanho/

*3:https://blogs.yahoo.co.jp/tamusi22/40846373.htmlで授業事例を見ることができます。文章題の数量や,「はじめに,色紙 6まいの ねだんを もとめましょう。」というヒントは同一ですが,問題文はほんの少し異なっています。

*4:批判は2010年秋ごろに勃興したと認識しています。https://togetter.com/li/68853http://www.math.tohoku.ac.jp/~kuroki/LaTeX/20101123Kakezan.htmlも,公開は2010年11月です。

難しいのは,等分除でも包含除でもなく

 A÷B=Cという割り算によって,AとBとCの関係式が定義されているときに,A÷C=Bの式でBを求めるのが,間違えやすいと言えます。AとBが同種の量(Cは割合)のときにも,異種の量(Cは単位量あたりの大きさ)のときにも,該当します。


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 第3部(技術編)の最初は「5時限目 数字を比べる」(pp.154-190)です.その最初のページには,講演時に「お手元の紙に○を6個書いてください。そして6÷3=2という割り算を、6個の○を使って実現してみてください」と尋ねると,「6個の○を2つずつ3つに分ける」のと,「6個の○を3つずつ2つに分ける」のに分かれるとしています。両方とも正しく,前者は等分除,後者は包含除です。これらの用語は,あとのページに太字で書かれており,「ぜひ覚えてください」とも記されています。
 等分除か包含除かを,4つの例題と割り算の式で整理しています(pp.160-163)。番号・言葉の式・例題を書き出しておきます。求めるための式はいずれも,6÷3=2です。

練習①「距離÷時間=速さ」
例題:6kmの道のりを3時間かけて一定の速さで歩いたときの速さを求めなさい。

練習②「距離÷速さ=時間」
例題:6kmの道のりを時速3kmで進むと何時間かかるかを求めなさい。

練習③「合計÷個数(人数)=平均」
例題:3人の点数が2点、1点、3点のとき、3人の平均点を求めなさい。

練習④「質量÷密度=体積」
例題:ある物質の質量を測ったら6gでした。この物質の密度が3g/㎤であることがわかっています。この物質の体積を求めなさい。

 引用しなかった解説の文章によると,①は等分除,②は包含除,③は等分除,④は包含除です.
 文章は等分除・包含除から離れます.n分の1(1/n)が1÷nであること,A÷BがA/Bという分数で表されること,「比べられる量÷もとにする量=割合」について「比べられる量→は(主語)」「もとにする量→~の(修飾語)」「割合→どれくらい(述語)」と読み替えて理解することなどを経て,p.178では「分数計算のトライアングル」を提示しています。
 式はA:B=C:Dという比例式から始まります。このとき,比の値から\frac{A}{B}=\frac{C}{D}です。外項の積=内項の積に基づくと,AD=BCと書くこともでき,この積の等式の両辺をCDで割ると,\frac{A}{C}=\frac{B}{D}という式にもなります。
 ここでD=1とすると,以下の3つの式が得られ,これが分数計算のトライアングルというわけです。

  • \frac{A}{B}=C
  • A=BC
  • \frac{A}{C}=B

 もちろん,比例式を起点としなくても,3つの式は(A,B,Cが0でない任意の実数のとき)等価と言えます。実際,中学で習う「等式の性質」を使えば,残りの2つの式を導くことができます。
 そして著者としては,3つ(比例式も含めると4つ)のうち1つだけを覚えておき,式変形して使うことを,推奨していません。「分数計算や割合(比)が得意な人と苦手な人の差は、この「分数計算のトライアングル」が頭に入っているかどうかだと言っても過言ではありません。ぜひこの機会に身につけてしまいましょう。」(p.179)と述べ,頭に入っている=すぐに取り出して使えることを読者に要請しています。
 直後に,例題があります。

例題:1つ売れると3600円の利益が出るセーターの利益率(価格に対する利益の割合)は20%であることがわかっているとき、このセーターの価格を求めなさい。

 小学5年の知識だと,3600÷0.2=18000 答え18000円ですが,なぜ「0.2で割る」かを説明するのは,ちょっと手間を要します。この本では,「利益/価格=利益率」に数値を割り当て,「3600(円)/価格=0.2」としてから,「3600(円)/0.2=価格」に変換し,価格=18000(円)を得ています。書籍で明示されていませんが,これは等分除にあたります(一方,「利益/価格=利益率」の式に基づき,利益と価格が分かっていて利益率(割合)を求めるのは,包含除です)。
 もっとも興味深かったのは,このセーターの例題のあと,p.180で太字で書かれた2つの文です。例題の直後には「この問題の答えがすぐにわかる人は、数字に強い人です。なぜなら、この問題は、割合に関する問題の中では最も難しいタイプだからです。」とあり,同じページの終わりから3行目には,「政府や民間が行っている学力調査の類を見ると、分母を答えさせる問題は正答率が目立って低いことが多いのです。」も太字です。上記の練習④については,「他の問題よりも難しく感じませんでしたか? これも「質量÷体積=密度」を変形して体積を求めさせる問題だったからです」(p.181)と解説しています。
 セーターの例題は等分除,練習④は包含除であることに注意すると,割り算で包含除と等分除のどちらが難しいかを検討するのは不適切ではないかと思えてきます。わり算,包含除・等分除,トランプ配り (2016.05) - わさっきや,割合モデルは淘汰されたのか~数直線モデルとの比較を通して考えるでは,いくつかの文献やテスト事例を挙げながら,3年の割り算の導入でも,5年の割合(小数の乗法・除法)でも,等分除のほうが難しいことを見てきました。
 これについて,練習④のもととなる,「質量÷密度=体積」や,「質量÷体積=密度」は,小学5年の学習対象外であることに留意すれば,(日本の)算数教育における矛盾は回避できます。
 ただ個人的には,速さを求める練習①よりも,時間を求める練習②のほうが(数値が小数・分数になるか,1時間よりも小さな値が答えとなるような出題では)間違えやすいようにも思います。移行措置により小学校算数での「速さ」の学習は来年度より,5年生となる点と合わせて,出題例や授業例を見ていきたいところです。

6年比例の文章題について

 かけ算の順序論争の高学年版と見ることができます。言葉にしますと:

「買ってきた針金の重さは810gです。これと同じ針金3mの重さをはかると、54gでした。買ってきた針金の長さは何mですか。」という問題に対し,式に「810÷54=15 15×3=45」,答えに「45m」と書いたら,式のうち「15×3=45」は減点され,正しい式は「3×15=45」であるという。
「高速道路を、ある自動車は、16分間で20km走りました。同じ速さで走ると、この自動車は2時間で何km走りますか。」という問題に対し,式に「120÷16=7.5 7.5×20=120」,答えに「150km」と書くと,式のうち「7.5×20=150」は減点され,正しい式は「20×7.5=150」であるという。

 なぜ不正解なのかというと,https://twitter.com/sekibunnteisuu/status/1070175830230261760に書かれた「最初の問題だと、810÷54で15倍と出して、3mの15倍だから、15×3じゃなくて、3×15とすべき、という話でしょう。」が明快です。以下も,aのb倍はa×b(b×aは不正解)を前提としています。最初のツイートの画像から,対象学年を読み取ることはできませんが,小学6年の知識で解くものとします。
 かけ算・わり算の式にするにあたり,針金の長さと重さ,同じ速さで走る自動車の時間と道のりが,それぞれ比例関係であることに,注意をしないといけません。そして表を見ると,「1」もしくは比例定数にあたる数値がないため,複数の演算を要することが想定されます。
 なのですが,2問とも「わり算をしてかけ算をする」という手順で求められるのは,単調に感じました。表を活用しているようにも,感じられません。
 比例関係に基づいて計算をすること,そして同種の「何倍」のほか異種の量の間の「何倍」も考えられることに注意すると,例えば次のような出題にすることができます。

[4] 買ってきた針金の重さは810gです。これと同じ針金3mの重さをはかると,54gでした。買ってきた針金の長さを求めます。
(1) 下の表をうめなさい。?には何も書かなくてよい。
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(2) 重さが54gから810gになると,何倍になりますか。式と答えを書きなさい。

(3) 次の文章の□に当てはまる言葉を答えなさい。

針金の長さと重さは□します。針金の長さが2倍,3倍,...になれば,それにともなって重さも2倍,3倍,...になります。

(4) これまでの結果を使って,810gの針金の長さを求める式と答えを書きなさい。

 高速道路の問題は,計算しやすいよう,少し数値を変更しています。

[5] 高速道路を,ある自動車は,16分間で24km走りました。同じ速さで走ると,この自動車は2時間で何km走るかを求めます。
(1) 下の表をうめなさい。?には何も書かなくてよい。
f:id:takehikoMultiply:20181212055140j:plain

(2) 数が16から24になると,何倍になりますか。式と答えを書きなさい。

(3) 次の文章の□と◇に当てはまる言葉をそれぞれ答えなさい。

同じ速さで走るとき,時間と道のりは□します。対応する時間と道のりの◇は一定です。

(4) これまでの結果を使って,2時間で何km走るかを求める式と答えを書きなさい。

 このように書いてみたとき,「2時間で何km走りますか」の問題は,針金と同じ考え方,もしくは「16分で24kmなら,分速1.5km」と暗算することで,式として1.5×120=180でもよい,と言っていいでしょうか。
 上記の問題案は,そうではないよという意図を入れています。表に値を書き,「?倍」を添えることで,基準となる量は何で,それを何倍すれば,(同種または異種の)求めたい量になるかが,視覚化できるというわけです。
 いくつか関連情報を書いておきます。「1」または比例定数がない状態での,2×2の比例関係については,http://hdl.handle.net/10513/2146からPDFが無料で読める文献に,授業事例が紹介されています。高速道路の問題案のように,表の上下の関係で「~倍」を考えることは,『田中博史の算数授業のつくり方』*1のp.145に言及されているほか,昨年の小学校学習指導要領解説算数編に収録された4年の「段数×4=周りの長さ」*2や,Vergnaudによる乗法構造の一つ*3も,密接に関連します.中学数学になると,穴埋め問題を通じて3(n+1)が「n+1の3倍」は正解,「3のn+1倍」は間違いというのを,平成23年全国学力・学習状況調査として実施を予定していた調査問題の数学B大問2*4より見ることができます。

全部かけ算とはかぎらないよ

筑波大学附属小学校田中先生の 算数 絵解き文章題 (有名小学校メソッド)

筑波大学附属小学校田中先生の 算数 絵解き文章題 (有名小学校メソッド)

 かけ算の学習のところで,かけ算でない場面が交じっています。具体的にはp.84の「かけ算⑥」で,問題は以下のとおりです。
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かけ算⑥
 このページの解説は,p.137にあります。たし算を入れているのは,意図的なのです。

アドバイス 前回は,「1つ分の数」→「いくつ分」の順に数字が出てくる文章題(Aパターン)と「いくつ分」→「1つ分の数」の順に数字が出てくる文章題(Bパターン)を織り交ぜましたが,今回はさらに,たし算のパターンを織り交ぜて提示しています。
 また,図の表し方も,前回より抽象度を増しています。
 お子さんには,どのようなタイプの文章題に対しても,問題文を読んで場面のイメージをしっかりつかみ,図に表せるように指導してください。

 関連するのは,2009年に出版された『田中博史の算数授業のつくり方』*1です。田中先生が,小学校の先生方に対して話しています(p.62).

次に,文章題指導の話をします。
1・2・3年生の学習では,文章題が非常にたくさん出てきます。低学年のうちは,子どもたちは簡単だと勘違いして,得意になっているようですが,実は,高学年になって算数ができなくなる子の多くは,低学年から考えることをしていなかった子に多いのです。
実は,低学年時代は,考えなくても正解になってしまう問題が多いのです。たし算のときはたし算ばかり,ひき算のときはひき算ばかりです。子どもたちは何も考えなくても,文章題は○になります。市販のテストには「たし算」とタイトルが書いてあります。そこに出てくる文章題がたし算以外のはずはないんです(笑)。
このような体験ばかりしてきた子どもたちが,高学年になってだんだんわからなくなっていくのは,小さい頃から,考えることをさせてこなかった授業に原因があると考えています。そこで私は,子どもたちが今,算数の授業に学んで出会う文章,それから絵,図や表やグラフ,式,こういったものを,大人がどのようにしてイメージしてリンクさせていくのかを考えました。(以下略)

 なお,「かけ算⑥」の画像のうち,左下の「3つの箱に」から始まる文章題について,右上の点と結ぶのはいいとして,式を「3×4=12」と書くことは期待されていません。というのも同書のpp.72-73では,「一つ分の数×いくつ分=全部の数」が記載されており,これに沿ったかけ算の式は「4×3=12」となります。
 今回の内容は,かけ算の学習の中に,かけ算以外の場面を入れて,それぞれ適切に演算の決定ができるようにするという実例と言えます。また別の学習形態として,情報過多・情報不足の問題を提示して子どもたちに考えさせるというのも,知られています。以下のページに教科書の画像のほか,解説文には「情報過多(条件過多)の問題」「情報不足(条件不足)の問題」という表記を見ることができます。

長方形を選ぶときに,正方形も選ぶのかどうか

 「正方形は長方形」あるいは図形の弁別に関して,以前に購入しており久しぶりに読んだ,2つの本を取り上げます。

  • 中島健三, 瀬沼花子, 清水静海, 長崎栄三: 算数の基礎学力をどうとらえるか―新世紀に生きる子どもたちのために, 東洋館出版社 (1995).

算数の基礎学力をどうとらえるか―新世紀に生きる子どもたちのために

算数の基礎学力をどうとらえるか―新世紀に生きる子どもたちのために

 はしがきによると,著者の一人,中島健三氏はこの出版の前年(1994年)に急逝とのこと。213ページから始まる「講演 子どもたちは,学校で何をどう学んでいるか」は,中島氏による平成4年(1992年)10月22日の講演の記録です。
 読み進めると,p.221に,③に続いて「数学教育の現代化での対応」に下線が引かれており,pp.222-223に(したがって昭和40年代の話として),「正方形は長方形」に関するテスト問題や授業でのとらえ方などが書かれていました。

 それから,「論理的な思考力を伸ばす」ということも,当時非常に大事にしました。算数では,例えば,正方形と長方形があったときに,正方形も長方形の仲間に入れるかどうか,こういう包摂関係にかかわる問題がしょっちゅうあった。テストなんかするときに,「長方形に○をつけなさい」という問題を出したときに,正方形も○にするのかどうかと。そこで,この際,論理的な思考力を伸ばすということで,定義をはっきり子どもたちにわかる範囲でおさえて,それに基づいて考えさせることにした。そうすると,長方形と言うのは「4つの角が直角のもの」という定義になるが,正方形というのも4つの角が直角であるから,辺の長さはみんな等しいが,長方形の仲間に入るという格好になります。
 そこで,子どもによっては,「真四角なんかは長くないんだけれども,長四角の中にいれるんですか」という発言も出てくると思うんですね。そこが大事なことで,子どもに,「おやっ?」と思わせることが大事です。親切にしすぎるんじゃなくて,「これは長くないんだけれども,長四角の中にいいんだろうか」と,先生の方から質問するぐらいのことがあってもいいと思うんですね。そう考えざると得ないのだと。

 このことに関する個人的な見解は,「弁別では区別し,論証では包摂する」と表せます*1。弁別に関しては,『算数教育指導用語辞典』(第四版,第五版)に書かれた「一般の図形の集合から,条件が付加されて特殊な図形の集合が作られたとき,その特殊な図形の集合に名づけられた名称が,その図形の名称となるということである。」が関わってきます。この辞典の初版*2だとどう解説されているのか,ちょっと気になってきました。
 ともあれ,もう1冊の本に移ります。

  • 西上周作: 通知表に役立つ観点別算数プリント集 小学2年, フォーラムA企画 (2011).

通知表に役立つ観点別算数プリント集 小学2年―コピーしてすぐに使える

通知表に役立つ観点別算数プリント集 小学2年―コピーしてすぐに使える

 図形の弁別の問題は,p.139です。アからコまで,10個の図形があり,その最初の問題が「長方形は どれですか。」です。
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図形の弁別の問題
 そして「(正方形は のぞきます。)」を添えています。こうすることで,「正方形は,長方形ではない」と学習する子どもたちも,「正方形は,(『4つの角が直角のもの』という定義を満たすから)長方形である」と理解している子どもたちも,イとケを答えに書けば正解となります。

*1:メインブログのhttp://d.hatena.ne.jp/takehikom/20141127/1417036309http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20180404/1522783460で整理してきました。両方の記事でリンクしている,http://blogs.yahoo.co.jp/tamusi22/39103164.htmlの「あっ,正方形になってしまった。」は,今回の引用の「真四角なんかは長くないんだけれども,長四角の中にいれるんですか」と密接に関係しており,表現は違えど,子どもたちはそういう反応をし,先生方がすくい上げてきたわけです。

*2:第四版を見ると,「発刊にあたって」「はしがき」にはともに「昭和59年7月」とあります。