かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

十字型配置は,4×5も5×4も正解

 次の図で,●は全部でいくつあるでしょうか。式はどうなるでしょうか。
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 「1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」という,2年の算数で学ぶ式を用いることにします。
 たとえば,次のように囲むことができます。
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 そうすると,一つ分は,サイコロの4の目のように見えます。1つ分の数は4こ,それが5つあるので,式は4×5=20,答えは「20こ」です。「一つ分」と「1つ分の数」の違いについては,本記事の最後で書くことにします。
 また別の囲み方もできます。こうです。
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 この場合,一つ分はL字型(回転すれば,いずれも同じ形です)で,1つ分の数は5こ,そしてそれが4つです。式は5×4=20で,答えはもちろん「20こ」です。
 「5この4つ分」について,次のような囲み方も考えられます。
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 この場合の一つ分は,親指を立てた手の形状に似ているので,「いいね型」と呼ぶことにします。


 この問題について,新しく出版されたものから順に紹介します。2020年最初の「算数授業研究」で,見ることができました。

  • 尾崎伸宏: 子どもの考えのズレを生かし,見方・考え方を広げる!~●の数はいくつ 考え方を式に表してみよう!~, 算数授業研究, No.126, p.49 (2020).

 「2年生のかけ算学習後の発展教材」として,授業を実施しています。2段組の左カラムの下部に,囲みなしの図があり,右カラム上段には,円を5つ使った,上記の4×5と同じ囲い方です。「2×10」の式に対応する図もあります。本文に,「他にも,「2×10」や「5×4」をかいている子がいた。」「またその図を見て,「10×2」とも見えるよ」*1と反応した子も出てきた。友達の考えを見て,新たな見方が浮かんだ瞬間だった。」とありますが,5×4,10×2を示す囲い方は,載っていませんでした。
 2019年に目にしたのは,東京書籍のWebサイトです。

 ▼3年上p.2~3に,「●は全部で何こありますか。くふうしてもとめましょう。」として出題しています。見開きで,黒板を模したイラストの右側を見ると,しほさんは,L字型で4つを囲って「5×4=20」の式を,そしてこうたさんは2×2の1つ分だけを囲って(4の目をひとつだけ作って),「4×5=20」の式を,書いています。またp.3の中央には,「こうたさんの考えに合うように,こうたさんの図を線でかこもう。」という指示があります。
 「●の数は,同じ数のまとまりをつくれば,かけ算を使ってもとめることができる。」というのが,まとめになっており,そのすぐ下に「図や式に表すと,考えがわかりやすいね。」を添え,この場面においては,5×4でも4×5でもよいと言えます。
 啓林館 算数用語集のサイトで,同様の出題を見ることができます。

 第5学年です。「おかしが箱に入っています。」という場面から始まって,次に「みらいさんは,●の個数を求める式を,4×5と考えました。」とし,4の目が5つの囲み方が右に描かれています。「みらいさんの考え方を説明しましょう。」という問いのすぐ下,「おかし4個を1組としてまとめると,5組できます。だから,式は4×5となります。」が,地の文とは異なるフォントになっています。
 続いて,3人の式と「考え方を表している図」があり,このうち(い)は,L字型が4つの囲み方ですので,式はつばささんの「5×4」です。(あ)と(う)について,1回のかけ算で求めるというものではなく,前者はひろとさんの「4×2+6×2」,後者はあおいさんの「6×6-4×4」に,それぞれ対応付けられます。
 ただし内容としては,この事例を第5学年で学ぶ必然性には乏しく,乗除先行に注意(4×2+6×2=8+12=20であって4×2+6×2=8+6×2=14×2=28ではない)するなら4年の内容が関連し,分けて求めるのなら2年生や3年生でも,囲い方から式を立てたり,その逆をさせることができそうです。
 なお「式表示と式のよみ」に関連する表記として,https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387017_004.pdf#page=44には,改訂前(2020年3月まで)および改訂後(2020年4月から)の両方に,「式の表現と読み」というのがあり,領域は異なっていますが,第1学年から第6学年までを対象としているのは共通しています。
 2009年の書籍にも,出現します。

誰もができる子どもに活用力をつけるワクワク授業づくり―第2回RISE授業実践セミナーの報告

誰もができる子どもに活用力をつけるワクワク授業づくり―第2回RISE授業実践セミナーの報告

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 学校教育研究所
  • 発売日: 2009/07
  • メディア: 単行本

 現行の小学校学習指導要領と解説が告示・公開された年(平成20年)の8月に開催された授業実践セミナー*2が,DVD付き書籍になっています。正木孝昌氏によるまとめ講演の途中,p.101には2つの図があり,図Iは囲い込みのない配置,図IIは4の目(囲う線は破線,以下同じ)が5つです。その次のページには,いいね型で4つを囲ったものが図IIIになっており,同じページに「一番私が面白かったのはこの図です」とも記されています。


 冒頭に挙げた形状において,●の数を求める式は,4×5でも5×4でもよいというのは,(日本の)算数で確立されているといっていいでしょう。
 とはいえそのことをクラスで共有したとしても,「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 4こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」という文章題に対し,これも5×4でもいいんだよという展開は,見当たりません。
 今回の件にせよ,L字型などのアレイ*3にせよ,「一つ分が明示的でない場合に,自分で一つ分を設定」することが意図されています。それに対し,「さらが 5まい…」の文章題は,一つ分を読みとる活動と言えます。
 「一つ分が明示的でない場合に,自分で一つ分を設定」は,順序の強制か,意味の理解かの最後の段落で紹介したものですが,その出典となる[布川2010]では,2006年の学校図書の教科書から,類題を紹介しています。具体的には,以下の形状を提示して,「3×4に なるように,かこみましょう。」と出題しています。

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 「たけしさんの かんがえ」は,L字で3つ分を囲って「一つ分」としています。これについても,得られる4つを回転すれば,いずれも同じ形です。
 「1つ分の数」を4にするような囲い方はできますが,★を移動させることなく,回転や平行移動で同じになるような,「一つ分」が4つの★となる囲み方を,3つ作ることは,できそうにありません。
 いくつかのグループがあって,「一つ分」がみな同じ(identical)というとき,その数すなわち「1つ分の数」も等しい(equal)と言えますが,逆は必ずしも真ならずです。*4

*1:原文ママ。開始のカギカッコが1つ欠落しています。

*2:算数の授業の一部を,https://takehikom.hateblo.jp/entry/20111125/1322171246の「3. ワクワク授業づくり - お菓子」で取り上げています。

*3:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2019/06/22/082913

*4:「1つ分の数」は教科書で採用されている表記です。「一人」ではなく「1人」と表記することについて,https://www.tokyo-shoseki.co.jp/question/e/sansu.html#q2でQ&Aになっています。