- 田中英海: 乗法の意味をもとに,除法の意味を創っていく授業, 算数授業研究, 東洋館出版社, Vol.135, pp.26-29 (2021).
授業風景や板書は,表紙裏でカラーになっています。そこには「田中英海 筑波大学附属小学校授業研究デビュー」とあります。編集後記には「青山,田中の両先生が,本校算数部に加わった。今回は,そのお披露目授業研究会の紹介もさせていただいた。」というのも入っており,pp.30-31では,筑波の算数の(授業者を除く)6人の先生がそれぞれ,授業へのコメントを寄せています。
田中英海氏の名前は(1つ分)×(いくつ分)=(全体)で解釈できない式を認められるのか~「変わり方調べ」の授業事例で取り上げましたが,これを公開した時点では,筑波の算数に赴任されたことを把握していませんでした。今回の雑誌(算数授業研究135号)と合わせて購入した以下の本でも,田中氏の所属は,東京学芸大学附属小金井小学校算数部でした。
授業に入る前のp.29の段落を書き出しておきます。この授業の背景となる,包含除・等分除の考え方が,明快に記されているのです。
単元導入は包含除(a×□=c)場面とする。子どもたちの生活経験や分けるというイメージを大事にすると等分除(□×b=c)の導入になる。一方,包含除で導入するよさは,かけ算九九が見えやすく,操作が容易なことである。また,上の2つをわり算として統合する時,包含除の意味や操作をもとに,等分除を捉えることができる。
わり算の導入の授業です(授業を通じて,「÷」の記号が出現しません)。表紙裏で大きく書かれている問題場面は「あめが ふくろに 入っています。一人に 4こずつ 分けていきます。ぼくまで もらえるかな?」です。ここからはp.27を見ていきます*1。条件不足の問題で,黒板を使って分配していくと,あめは全部で24個であり,4個ずつ6人に配れることが分かります。受け取った子どもの,黒板上の絵は,「ニコニコした顔」です。7人目の子は,もらえなかったので,「残念な顔」です。式は,p.28を見ると,もらえなかった子を含む「4+4+4+4+4+4+0=28」や,同数累減の「24-4-4-4-4-4-4=0」といったものも出てきます。
ここで,「ぼくまで もらえるかな?」の「ぼく」が,8人目となりました。この子どもだけ紙で描かれていて,最初の配置では控えめな表情でしたが,ひっくり返して黒板に貼り付けると,悲しい表情になっています。「一人に 4こずつ」では,8人目の「ぼく」はあめを受け取れないからです。
これに対し「一人分の数を1個少なくする」という意見が出ます。24個のあめを,一人に4個ずつなら,4×6=24で,一人に3個ずつなら,3×8=24です。表紙裏の板書にも,2通りの分け方と,かけ算の式が書かれています。3×8=24のほうは,8が四角で囲まれていて,「何人分」の吹き出しが添えられています。
条件不足の問題から始めることや,途中で場面を変えて式なども変わることなどは,筑波の算数の授業事例(の出版物)を通じて何度か見てきました。「実践を振り返って」(p.28)の最初が「①同数累減の式を出したい教師のエゴ」というのも,筑波の算数の新人らしさを見せているように思えます。
本文4ページのうち,何度も読み直したのは,「②等分除のイメージに対して」のところです(p.29)。
②等分除のイメージに対して
一人に分ける数を4つから3つに減らした時に,4こずつ6人に配ったあめから1こずつ再分配しようとする発言があった。ノートにはその考えを記した子が複数見られた。
(図省略)
その子たちは,「8人なのか?」という意見に対してねらった 3×□=24を考えておらず,3人から1個ずつを1セットとして,2人分増える操作をイメージしていた。
物を分けるという行為に対して,多い数から分けてあげる,いる人数で等分しようとする再分配の思い,等分除的な操作は子どもの自然な発想なのだと改めて感じた。文脈の設定として,知らない人同士が並んでいる,お店に並んでいて何人目まではもらえる,別のヒトして新しい袋から配る,などの整理をする必要があった。一方,再分配したいという自然な思いを,等分除場面に活かす展開も考えたい。
次の2点が,気になりました。一つは,除法を包含除で導入しており,等分除の場面を学習していないのに,「等分除のイメージ」を想定しているわけで,等分除の意味や操作をもとに,包含除を捉える可能性があるというのかということ,もう一つは,再分配は実のところ,等分除ではないのではないかということです。
ここで再分配は,分配法則と関連付けられます。式で表すと24(=3×8)=3×6+3×2です。わり算ではなく,かけ算とたし算の組み合わせです。ただし,「3人から1個ずつを1セットとして,2人分増える操作」をより忠実に,式に表すなら(そして除算記号のほか,乗除先行も未習と仮定するなら),「3×6=18 24-18=6 3×2=6」となります。
このように考え,式を作ることで,「等分除のイメージ」が見えてきました。「一人に分ける数を4つから3つに減らした時に」のところを,「24個のあめを,8人で同じ数ずつ分けると考えて」に置き換えればよいのです。式は,4×6=3×8(=3×6+3×2)と表せます。この4×6=3×8については,2年で学習する(解説のつかない小学校学習指導要領の算数に記載されている)「一つの数をほかの数の積としてみる」を踏まえたものとなります。
「24個」と「一人に4個ずつ」が既知のとき,4×□=24から□=6(「6人に配れる」)と求めるのは,包含除に対応します。授業の途中(p.28)の「あめが24個入っているよ。3個ずつ分けるともらえそうだと思う人?」という先生の問いかけも,3×□=24そして□=8を期待しており,包含除です。
なのですが,そこまでの授業の展開で,8人目の「ぼく」が見えているので,「あめが24個入っているよ。8人に(同じ数ずつ)分けると何個ずつになる?」と場面を捉える(そのように複数の子どもが解釈した)ことで,□×8=24から□=3を求めるという,等分除になるというわけです。
分配の総数は変わることなく,話の途中で,「1人分の数」「いくつ分」を変えるという話の,メインブログの初出は,以下の記事になります。
わり算に特化した記事は,以下より読めます。
「わり算として統合する時,包含除の意味や操作をもとに,等分除を捉えることができる(等分除の意味や操作をもとに,包含除を捉えるような授業や指導は見当たらない)」については,今年,https://twitter.com/takehikom/status/1348249572884107265とhttps://twitter.com/takehikom/status/1398441235061231617(いずれもデッドリンク)のツイートにしていました。
「筑波の算数」で,板書一つに3用法すべてを見出すことのできる授業を,昨年,取り上げていました。
*1:こちらのページで,文中に四角で囲まれた問題場面では,「一人」が「1人」と表記されています。