かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

馬は6頭,2人ずつ


 あとのツイート(https://twitter.com/musorami/status/1343927970587496454)によると支援員とのこと。
 こういう授業はよくないという意図が含まれた一連のツイートを読み,ツイートをされた方よりも,そこに登場する「先生」のほうが,かけ算の指導について見識を備えていると判断しました。
 先生の発言の中で特徴的なのは,以下の3つです。


 最後のツイートの先生の発言より,意図を知ることができます。6+6で求めようとするときの6を,馬の数から子どもの数に変換することを,子どもがきちんと説明してくれれば,(6+6もその場面を表した式として)認めよう,でも授業中のやりとりでは,認めるに至る情報が得られなかった,ということです。
 また前2つのツイートのうち,「なんで?馬が6頭で子どもが2人ずつなのに、なんで6+6になるの?」や「馬と馬を足すの?聞かれているのは人の数だよ」については,かけ算の単元の一番最初の授業に限定されない,乗法構造の重要な指摘となっています。半具体物・アレイなどや,トランプ配りを活用して,6+6または6×2という式を立てたとしても,場面と照合すると,その式は「馬と馬を足す」という意味に解釈されてしまう,ということです。
 国内でも同様の解釈*1を見かけますが,最初に思い浮かんだのは海外文献です。

  • Vergnaud, G. (1988). Multiplicative Structures. In Hiebert, J. and Behr, M. (Eds.), Number Concepts and Operations in the Middle Grades, Vol.2, pp.141-161. [isbn:0873532651]

Procedure d is meaningless in terms of cars and costs. Twenty dollars cannot be 5 cars + 5 cars + 5 cars + 5 cars. Young students apparently are aware of this and never user procedure d.
手続きdは,車の数と価格の観点から,無意味である.20ドルは,5台の車+5台の車+5台の車+5台の車にはなり得ない.幼い生徒たちはどうやらそのことに気づいているらしく,決して手続きdを使わない.

 あえて違いを書くなら,メリーゴーランドの事例で6+6がおかしいと主張する(チャレンジを要求する)のは先生だったのに対し,"Twenty dollars cannot be 5 cars + 5 cars + 5 cars + 5 cars."は子どもたちの状況を著者(Vergnaud)が言語化したというところです。
 ツイートのうち,「あの子たちの考えを意図的に取り上げて板書しなかったんだ」についても,Twitter受けにはいいのかもしれません。かけ算の国内外の教え方学び方を踏まえ,外から「参観」させてもらって感じたのは,場面を表す式として,何が認められるか否かが,発信者と授業をされた先生との間で違っていた,ということです。