かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

令和6年度算数教科書読み比べ(5)~等分除・包含除

 第3学年の教科書に焦点を当てます。「令和5年3月15日検定済」で来年度より使用される各社の算数教科書(見本)で,等分除・包含除の場面を左右に並べているページがありました。

東京書籍 新編 新しい算数 3上

(ページ失念)

こうた 6このあめを、2人で同じ数ずつ分けると、1人分は何こになりますか。

しほ 6このあめを、1人に2こずつ分けると、何人に分けられますか。

 上記の2問が左右に並んでおり,式を書く欄と,絵のあと,こうたの問題には「□×2=6」,しほの問題には「2×□=6」の式があり,そのあと統合して「6÷2=□」の式が中央にありました。

大日本図書 新版 たのしい算数3年

(p.83)
 「6÷2=3の式になる問題をつくりました。2人がつくった問題をくらべましょう。」のあと,以下の問題が左右に並んでいました。

ゆうと 6このみかんを2人で同じ数ずつ分けると、1人分は何こになりますか。

クレア 6このみかんを1人に2こずつ分けると、何人に分けられますか。

 それぞれの下に図があり,ゆうとの問題には「1人分は[3]こ」「□×2=6」の言葉や式が並び,□には吹き出しで「1人分の数」がついていました。クレアの問題には「[3]人に分けられる」「2×3=6」のあと,「3」に吹き出しで「何人分」でした。この段落で2回出現する「[3]」は,原文では,3が□で囲まれていました。

学校図書 みんなと学ぶ 小学校 算数 3年上

(p.45)
 「次の2つの問題を比べてみましょう。」のあと,以下の問題が左右に並んでいました。

ア あめ15こを、3人で同じ数ずつ分けます。1人分は何こになりますか。

イ あめ15こを、1人に3こずつ分けると、何人に分けられますか。

 その下は「どんな式になりますか。」です。ア・イそれぞれで式を書く欄が分かれており、アの欄の下には「全部の数÷いくつ分=1つ分の数」「[答えのもとめ方]」「5×3=15」,イの欄の下には「全部の数÷1つ分の数=いくつ分」「[答えのもとめ方]」「3×5=15」と続きます。
 同ページ右下の吹き出しには,「1人分をもとめるときは、□×3=15、何人に分けられるかをもとめるときは、3×□=15で、□にあてはまる数をもとめたね。」と書かれています。

教育出版 小学算数3上

(p.63)
 「2つの分け方」と題し,「8÷2の式になる問題をつくりましょう。」のあと,以下の問題が左右に並んでいました。

はる 8このクッキーを1人に2こずつ配ると何人に分けられますか。

ゆき 8このクッキーを2人に同じ数ずつ分けると、1人分は何こになりますか。

 それぞれの下に図があり,はるの問題には「2×□=8」「↓」「8÷2=□」「答え___」(ここまでの2つの「□」の上には「いくつ分」),ゆきの問題には,「□×2=8」「↓」「8÷2=□」「答え___」(ここまでの2つの「□」の上には「1つ分の数」)があります。
 そのあと,1段組になって,「「いくつ分」をもとめる場合も、「1つ分の数」をもとめる場合も、どちらもわり算の式になります。」「かけ算の式に表したときの、□の場所にちがいがあるんだね。」と書かれていました。

啓林館 わくわく 算数3上

(p.24)
 「15÷3の式になる2つの問題があります。この2つの問題をくらべてみましょう。」のあと,以下の問題が左右に並んでいました。

15まいの色紙を、3人に同じ数ずつ分けると、1人分は何まいですか。

15まいの色紙を、1人に3まいずつ分けると、何人に分けられますか。

 左の問題には,「ゆい 1人分の数をもとめる問題だから……」,絵,「[1人分の数]×3」「答えは、□×3=15の□にあてはまる数です。」「[5]×3=15」と続きます。右の問題には,「れん 分けられる人数をもとめる問題だから……」,絵,「3×[人数]」「答えは、3×□=15の□にあてはまる数です。」「3×[5]=15」と続きます。ここまでにおいて「[...]」は原文では文字または数が四角で囲まれていました。

日本文教出版 小学算数3上

(p.31)
 「6÷3の式になる問題をつくりましょう。」のあと,以下の問題が左右に並んでいました。

りくさん 6このおにぎりを、3人で同じ数ずつ分けます。1人分は何こになりますか。

ゆいさん 6このおにぎりを、1人に3こずつ分けます。何人に分けられますか。

 それぞれの下に図があり,りくさんの問題には「□×3=6の□にあてはまる数を考えます。」,ゆいさんの問題には「3×□=6の□にあてはまる数を考えます。」が続きます。
 そのあと,統合して中央に「6÷3=[2]」,そして1段組の文章として「6÷3の答えは、3のだんの九九を使ってもとめられるね。」「まとめ 1人分の数をもとめるときも、何人分かをもとめるときも、どちらもわり算の式になります。」と書かれていました。

補足

 ここまでについて相違点をグルーピングすると次のようになります。

  • 等分除・包含除の並び
    • 左が等分除,右が包含除:東京書籍,大日本図書,学校図書,啓林館,日本文教出版
    • 左が包含除,右が等分除:教育出版
  • わり算の式の出現
    • 左右に分かれるより前:大日本図書,教育出版,啓林館,日本文教出版
    • 左右に分かれて展開したあと:東京書籍,学校図書

 共通点としては,□を用いた式が出現しており*1,かけ算の式はいずれも「1つ分の数×いくつ分=全部の数」をもとにしている点を挙げることができます。『小学校学習指導要領解説(平成29年告示)算数編』に書かれた,以下の2箇所が関連します。

(p.148)
 また,除法は,乗法の逆算ともみられる。そこで,乗法と関連させて,被乗数,乗数のいずれを求める場合に当たっているかを明確にすることも大切である。等分除は,□×3=12の□を求める場合であり,包含除は3×□=12の□を求める場合である。

(p.149)
 例えば,12個のものを3個ずつ分けて,分けられた回数を求める場合(包含除)は,分けられた回数を□とすると,3×□=12の□を求めることと同じである。また,12個のものを3人で分けて,一人分の数を求める場合(等分除)は,一人分の数を□とすると,□×3=12の□を求めることと同じである。先に述べたように,等分除の操作は包含除の操作としてもみることができるので,どちらの場合も,12÷3の計算が3の段の乗法九九を用いて能率的に求めることができる。このようなことを考えることができるようにすることがねらいとなる。

 等分除・包含除の場面を,対比できるような見せ方は,令和6年度算数教科書が初めてではなく,現行(令和2年度使用)も,過去の教科書もそうであったと推定できます。以下のページの画像は,教科書からの抜粋と思われます。

 海外文献に目を向けると,Greer (1992)の"A consequence of this asymmetry is that two types of division may be distinguished."(この非対称性の結果として,2種類のわり算が区別されます。)*2も同じ趣旨といっていいでしょう。
 等分除と包含除のかけ算の式の違いは,「交換法則を学んだら,かけ算の順序は(かけられる数とかける数の並びは)どちらでもいい」という主張と相反します。実際のところ,6年まで,「どちらでもいい」のではないのです。