かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

朝日中高生新聞に,かけ算の順序

 執筆者(小谷太郎氏)によるツイートを,https://twitter.com/tarokotani/status/1439172526937030662より読むことができます。批判ツイートは,https://twitter.com/takehikom/status/1441692592823943174https://twitter.com/flute23432/status/1441754770352402434になります。
 感想を手短に述べると,「計算の性質」と,みかんの個数や長方形の面積はかけ算で求められるという「演算の決定」との関連づけが,十分になされておらず,また「環*1」にしても「順序を正しく書かなければならない」にしても,それらを持ち出すことによって,中高生の学びに対しどのような効果をもたらすのかを,推し測ることができませんでした。
 ツイートで『算数教育指導用語辞典[第五版]』について言及しましたが,第四版の関連する箇所を,積の非可換性についてで取り上げました。みかんの個数のような非対称な(被乗数と乗数の区別がなされる)かけ算と,長方形の面積のような対称な(区別がなされない)かけ算については,Vergnaud (1988),Greer (1992)で対比がなされています。メインブログ(わさっきhb)の2つの記事で,紹介しています。

 かけ算・わり算などの演算を,中高生の数学の学びと結びつけようとするのなら,一つの方向性は,ツイートにも挙げた,wikipedia:閉性です。「整数全体の成す集合は,除法について閉じている」の反例を挙げ,「0を除く有理数全体は,除法について閉じている」の証明が書けると,いいでしょう。
 また別のアプローチは,可換性と結合性の対比そして共存です。可換性を満たして結合性を満たす2項演算には論理演算のNANDとNORがあり,反対に可換性を満たさず結合性を満たす2項演算として,行列の積のほか,文字列の連結*2を例示することができます。可換性と結合性のおかげで,例えば小学校では三角形の面積を(底辺)×(高さ)÷2といった言葉の式で書くところを,中学1年では,\displaystyle S=\frac12ahのように表せるわけです。
 本日の記事のタイトルは,以下を改変したものです。そこで冒頭にリンクしている,朝日新聞デジタルの記事は,今も読むことができます。

*1:ところで,環は,加法と乗法という2種類の異なる演算を前提とします---どちらか一方だけなら「群」です。なのですが,整数の乗法は,「累加」により,加法をもとに定義されます。紙面の都合とはいえこれらへの言及がないのも,不親切に感じました。

*2:個人的によく使うのは「和歌山」と「大学」と「前」の連結です。「和歌山大学」と「前」を連結しても,「和歌山」と「大学前」を連結しても,「和歌山大学前」が得られるのに対し,「和歌山大学」と「大学和歌山」は明らかに異なる文字列です。