かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

式だけを見て,その意味を一つに定めることは,過大な要求

Q: 3×5にせよ,5×3にせよ,立式の意味を一つに定めることはできないのでは?

A: 式だけを見て,その意味を一つに定めることは,過大な要求のように感じます.式が場面に合っているかの判定ができれば十分です.

「×」から学んだこと 13.04—かけ算の意味・式の意味 - わさっきhb

 上記のQ&Aでは,このあと,かけ算の具体的な事例を説明していますが,Aの2文に関しては,他の演算でも言えることです。
 わり算の式で,考えてみます。

 「8人に,4Lのジュースを等しく分けます。1人分は何Lですか。求める式と答えを書きましょう。」という設問に対し,◎の2つの解答類型を合わせた正答率は55.7%で,式が「8÷4」,答えが「2」という誤答が,36.0%ありました。
 報告書を読み直して,昨年は気にせずに書き出していた箇所に,誤記があることに気づきました。*1

 また,8÷4=2の式を扱う際は,「(大きい数)÷(小さい数)をしたのではないでしょうか。」や「8人に4Lを分けるときに8÷4=2の式になりますね。」などと,8÷4と立式した背景を想像し共感的に受け止めながら,問題場面を適切に理解し,数学的に表現できるようにすることも大切である。

 2番目のカギカッコの中は,例えば「8Lを4人に分けるときに8÷4=2の式になりますね。」としないと話が通りません。
 このように変更することで,このカギカッコの中身は,上記のAのうちの「式が場面に合っているかの判定」(合っていないこと)を,簡潔に表したものとなっています。
 その前のカギカッコの「(大きい数)÷(小さい数)をしたのではないでしょうか。」は,「式が場面に合っているかの判定」ではなく,除法の立式の根拠として「(大きい数)÷(小さい数)」は不適切であることの説明になっています。これと類似した,かけ算の事例には,https://www2.sed.tohoku.ac.jp/~edunet/annual_report/2011/11-06_miyata.pdf#page=7に書かれた「全体量=ある数×他の式」があります。
 8人で4Lのジュースを等しく分けるという話で使用される,立式の根拠は,等分除です。『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』の記述としては,「ある数量を等分したときにできる一つ分の大きさを求める場合」(p.146)であり,そのあとの言葉の式を少し変えて,「(幾つ分かに当たる大きさ)÷(幾つ分)=(一つ分の大きさ)」に当てはめて,式に表すことができます。4を「幾つ分かに当たる大きさ」,8を「幾つ分」にそれぞれ対応付けます。そして計算で求められる0.5が「一つ分の大きさ」となって,問題場面に基づき「0.5L」になります。
 『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』pp.147-148の以下の記述も,式から意味を一つに定めることを要請していません。

 また,式を読み取るとは,式から具体的な数量の関係を捉えることである。例えば,15÷3の式から「みかんが15個あります。一人に3個ずつ分けると何人に分けられますか。」というような問題場面を見いだすことができる。このように,式と具体的な場面を関連付けるようにすることが大切である。

 この「式と具体的な場面を関連付ける」に基づき,授業や教科書・問題集などによる学習を通じて,「式が場面に合っているかの判定」ができることが期待されます。
 式とその結果とを同一視する主張には,賛同できません。ここまで取り上げてきた出題に対しては,「8÷4」という式を立てた時点で,結果を求めるより前に,「『8人に,4Lのジュースを等しく分けます。1人分は何Lですか。』を表した式か?」の検討ができるようになることが望まれます。
 この確認作業を行わないとなると,8÷4=2と商を求めることではじめて,この結果が題意を満たすかを検討することになります。5年の内容で,筆算により小数どうしのわり算をしてから,わり算ではなくかけ算だった,わられる数とわる数が反対だった,というのでは,計算の無駄が生じることになります。問題集の正解の数値と合っているからOK,とするのが習慣になると,テストの時間(正解と照合することができない!)には,自分の出した答えが正しいことを,確信できなくなります。
 「8÷4=2」や「20÷2÷3.14=3.18…」のように商を求めるより前に,「8÷4」や「20÷2÷3.14」が何を表すかを検討したり,文章題などで指示された状況と合致しているか否かを確認したりすることが,「式を読み取る」に含まれているわけです。「式に表す」「式を読み取る」ときに「式を計算する」のは必須ではない,ということでもあります。