かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

小学校の速さの授業を,x-tグラフで

 多様な図表示が掲載されていますが,本書で多く使用されている「グラフ」は,高校物理で見かける「x-tグラフ」のことです。

 x-tグラフは物体の時刻と距離を表すのに使用されます.等速直線運動で,時刻0のときの位置を0とすると,位置(変位)は時間に比例し,グラフ上では原点を通る直線となります。『伝わるグラフ指導』では,曲線を使用した概念図(p.85)のほか,以下のように(p.93),折れ線*1で各対象の動きを表す事例が,取り上げられています。

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 道のりが時間に比例するとき,道のり÷時間は一定の値をとり,その値が速さとなります。『伝わるグラフ指導』の折れ線においては,「平均の速さ」を求めています。上図に対し,「たおさんは,(82+38+107+63+70)÷5=72」「はなさんは,(50+110+40+72)÷4=68」を,p.98で児童(C)が発表しています。
 この72と68は,それぞれ,進み具合を平均化したときの,1分間に進んだ道のりであり,分速のことです。
 授業(pp.96-99)の展開も,ここまではよかったのですが,p.98下部の2つの二重数直線*2と,次のページの,平均化された「たおさんとはなさんの動き」は,数値が合っていません。

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 元の問題は「たおさんとはなさんが1周1224mの池の周りを歩いています。途中までの記録を取りました。どちらが早く1周するか考えましょう。」(p.96)であり,横軸の単位は「秒」から「分」に,そして縦軸の「122」は「1224」に読み替える必要があります。
 これは単なる値の取り違え*3ですが,x-tグラフであることを明記せずに本書で「グラフ」と表記し,田中博史氏による推薦の言葉にも,このことへの言及がなかったのは,読み通して気になったところでした。


 折れ線を,1本の線にするというのは「往復の平均の速さ」*4でも活用されています。「6kmの道のりを行きは時速2kmで進み、帰りは時速3kmでもどりました。往復の平均の速さを求めましょう。」(p.146)に対して,「(2+3)÷2=2.5 時速2.5km」という児童の発表は,間違いなのですが,時速2.5kmだったら,行きと帰りの時間の合計5時間とのかけ算により,道のりは12.5kmとなって往復の道のりに合わないことを,計算により確かめられるし,グラフで表すこともできます。
 間違いの理由説明が言葉だけ(p.148)で,読みにくさを感じました。ただ,児童の発言のうちの「時速2kmのほうに引っ張られる」は,この授業の範囲を超えますが,内分と結び付けることができます。実際,「6kmの道のりを…」の文章題では,求めたい速さを\displaystyle\frac{2\times 3+3\times 2}{3+2}という一つの式で表せます。この分数式に2回出現するかけ算はいずれも速さ×時間の順番であり,内分点を求めるための式(例えば内分点・外分点の座標(1次元)に見かける\displaystyle p=\frac{na+mb}{m+n}では係数*5が前に来るのが一般的です。

*1:ここはいずれも右上がりですが,うさぎとかめを扱ったp.135では,時間の経過にかかわらず道のりが増えていないことを意味する,右向きの線分も見かけます。戻ることを表す,右下の線分は,p.147で誤答の一つとして出現していました。

*2:本書における二重数直線の初出であり,これは速さの単元に入るより前に使用していた図と思われます。二重数直線は,後ろのページには何か所か見かけます。

*3:他の事例:https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2018/04/04/043632

*4:メインブログでは:https://takehikom.hateblo.jp/entry/20180516/1526417867

*5:関連:https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2018/09/10/043454