かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

ヒトッツ,オナジン,演繹的

 後ろ2つについて,URLの終わりは「.pdf」ではありませんが,それぞれリンクを進むと,拡張子が.pdfのファイルをダウンロードしました。
 《かけ算のいみやしかたを考えよう.pdf》を見ると,令和3年10月26日6校時の学習指導案となっています。はじめのページに「順序」が2度,出現し,いずれも「被乗数と乗数の順序」です。
 本時の学習活動に書かれているのは,「12個のレモンを同じ数ずつ袋に入れる場合を考え,乗法の式で表す。」です。次のページの「(3)展開」は,授業実施前の計画となっています。「T4:2個ずつ入れる分け方をかけ算の式で表してみよう。」という教師の問いかけのあと,発表させると,「C10:式で表すと2×6です。」「C11:6×2だと思います。」が出ます(右には「※6×2が出ない場合は教師から出す。」ともあります)。「T5:2×6でも6×2でも,どっちでもいいのではないかな。」もまた,教師からの質問になります。これには「C12:だめだよ。絶対2×6が正解だよ。」「C13:どっちでも良くない。2×6が正しい。」という反応を予想しています。
 実際の授業の状況は,《演繹的な考え方を使って問題解決していく指導の工夫.pdf》の最初のページで,枠で囲まれています。「ふくろ」から「皿」に替わり,累加の式はありません。「一つ分の数×いくつ分で立式」に基づき,2個ずつ6皿のときのレモンの数を表す式は「2×6」であって「6×2」ではないと結論づけています。
 両方のファイルに「ヒトッツ」「オナジン」というカタカナ書きが出現します。《かけ算のいみやしかたを考えよう.pdf》の最初のページで,詳しく書かれていたので抜き出します。

4 数学的な見方・考え方について ~一つ分の数を捉える「ヒトッツ」,演繹的に考える「オナジン」~
 本単元を通して,2つの数学的な見方・考え方を働かせて,問題解決していく。1つ目は,一つ分の数に着目して立式することである。一つ分の数を捉える「ヒトッツ」という見方を用いると,被乗数と乗数の順序を(一つ分の数)×(いくつ分)と正しく求めることができる良さに気付かせていきたい。
 2つ目は,常に乗法は(一つ分の数)×(いくつ分)で立式するといった既習事項に基づく演繹的な考え方である。演繹的に考える「オナジン」という考え方を用いると,正しく乗法の立式ができる良さに気付かせていきたい。そして,どの問題場面でも「オナジン」を使って考えることで,全ての乗法の式が(一つ分の数)×(いくつ分)であるという式の意味理解と,具体的な場面と関連付けて表現することができるようにしていく。

 「ヒトッツ」は一つ分の数,「オナジン」は「同じ数ずつ」に由来する,この文書(というよりは学級でのかけ算指導)のオリジナル表現と思われます。
 上の引用の中に,少し気になる書かれ方もあります。演繹的な考え方の対象として,「乗法は(一つ分の数)×(いくつ分)で立式する」のほか,「オナジン」に限定しているところがあります。
 「乗法は(一つ分の数)×(いくつ分)で立式する」を言い換えると,こうなります。「『一つ分の数』と『いくつ分』が分かっているとき,(一つ分の数)×(いくつ分)という式を立てて,全部の数をかけ算で求めることができる」です。「一般的な原理や原則などから、個別の事項や派生的な事柄を導き出すさま。」(Weblio辞書)という,「演繹的」の定義に,合っているものと言えます。
 それに対し,「オナジン」のみを対象として,「演繹的に考える」のは,自然でないようにも思います。
 少し考えて気づいたのは,「一つ分の数」は,乗法の場面でなくても使用できるということです。6つの袋にそれぞれ,4個,3個,2個,1個,8個,0個(最後の袋はからっぽ)のレモンが入っていたとき,4個入りの袋を手に「一つ分の数は4」と言うことは,できます*1。「6ふくろあるから,式は4×6,答えは24個」は,間違いです。
 4個,3個,…と不揃いなときには,「かけ算」は使えません*2。かけ算たらしめるのが「同じ数ずつ」であり,そこで---子どもたちが認識して,言葉で表し,かけ算の立式につなげるよう---,「オナジン」と「演繹的に考える」とを結び付けた,というわけです。
 今回の2つのPDFファイルを見ながら,思い浮かんだ記述をいくつか,挙げておきます*3

2年生の導入時では,被乗数と乗数を明確に区別して扱っているが,これもかけ算の意味の理解を確かにするためと考えられる.図1のみかん全部の個数を4×6=24と表すときに,被乗数4が一つ分の大きさ,乗数6が幾つ分を表していることを大切に扱う必要がある.(p.50)

第2学年や第3学年では、読み取った数を、「1つ分の数×いくつ分=全体の数」と表現できることが重要であり、逆に、この立式ができているかで、数の読み取りができているかを判断できる。(p.92)

Mayer (1992)によれば,スキーマ的知識には,例えば「面積の問題は,面積=縦×横という公式に基づく」のように,式についての知識が含まれる。「一あたり量がいくつ分」というかけ算の文章題で言えば,スキーマ的知識は「一あたり量がいくつ分というかけ算の問題は,全体量=一あたり量×いくつ分という式に基づく」のように表現できる。(p.59)

*1:より正確には「(この袋の中のレモンの数については)一つ分の数は4」です。

*2:4+3+2+1+8+0=18として求めることはできます。4年で習う正方形の面積の公式(一辺×一辺=面積)は,「正方形があって,その一辺の長さが分かっているとき,一辺×一辺という式を立てて,その面積をかけ算で求めることができる」と言えます。ここから,「一辺の長さが分からないと面積は求められない」と主張するわけにもいきません。「正方形は長方形のなかま」あるいは「正方形はひし形のなかま」と見なして,縦×横(または横×縦)や,対角線×対角線÷2の公式を使用し,面積を求めるのであれば,「一辺の長さ」を認識する必要はないのです。

*3:いずれも,https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2017/07/11/062026からの抜粋です。