第1章の論説の最初の3ページは,正負の数の四則計算を挙げ,章末コラムでは群・環・体(あみだくじが対称群となることも)の説明に分量をとっていて,「算数」の本ではないのかと,びっくりしました。第2章は,第1学年から第6学年までそれぞれ数個ずつ,全部で32個の実践事例です。
第5学年の実践事例の中に,2年生向けのかけ算のことが,図で表されていました(p.127)。以下ではその図を写真に撮ったり作り直したりせず,言葉で説明することにします。
図は箱で囲まれており,その中にも箱があり,以下の問題が書かれていました。
1はこにかんづめが8こずつ入っています。
6はこではかんづめは何こになるでしょう。
この上には「例えば,授業の最後に次の問題を出したら…」ともあります。かけ算の意味を確認するための文章題で,思い浮かぶのは,順序を問う問題*1ですが,このかんづめの文章題は,1つ分の数が「8」,いくつ分は「6」のかけ算の構造になっています。正解となる式は「8×6」で,2つの数をひっくり返す必要はありません。
実際,下方向に見ていくと,中央の「式」「(1つ分)×(いくつ分)」「同じ数をたす」の記載に対し,その左には「8×6」「8+8+8+8+8+8」「(全部同じ数をたすとき)」と書かれています。
水平線のあと,下には,中央は「言葉」と「「~ずつ」と「~つ分」という説明がある」で,その左は「「8こずつ」と「6はこ分」という言葉ある説明」(原文ママ)です。
もう一つ水平線のあと,最下段は「図」です。左は,4行2列で8個の丸を箱で囲って,1つ分とし,これが6つ,描かれています。
左上には,○が大きく書かれています。
それに対し右側です。右上には,○と同じ大きさで×とあります。「式」の右は,「6×8」「8+6+8+6+8+6」「(バラバラな数をたすのはだめ)」,「言葉」の右には,「「8と6があるから」のような説明」,最後に「図」の右は,6こずつ8個分の丸の配列です。
2年のかけ算の問題と,想定される反応を念頭に置いたとき,このかんづめの文章題に対し,6×8の式が間違いとなることについて,異論はありません*2。
とはいえ違和感もあります。右の「6×8」のすぐ下のたし算の式が,「8+6+8+6+8+6」となっていることです。代わりに思い浮かぶ累加の式は,「6+6+6+6+6+6+6+6」です(下部のアレイ図とも合います)。
図の左に置かれた段落に,作成意図が記してありました。
一方,同数累加の意味づけは,第2学年時に学習し理解しているものの,引き出されにくい状態にある。例えば,2年生にかけ算の意味を教えに行くという設定をして学びを振り返り,かけ算の意味を理解した状態について確認しておくと,効果的である。子供は改めて自分が理解しているかけ算の意味を自覚することができる。右は,2年生がかけ算の意味を理解した状態と理解していない状態を想定し,5年生の子供が整理した評価規準である。
かけ算をしっかりと理解していれば,6×8=6+6+6+6+6+6+6+6であるけれど,2年生が十分に理解できていない状態で,かんづめの文章題に6×8の式を立てる子は,6×8=6+6+6+6+6+6+6+6とは異なる数量関係の認識を持っているかもしれない,そのことを表したのが「8+6+8+6+8+6」なのだと判断し,納得がいきました。
図が提示され,三角形の総数を求める式として「3×8」「6×4」「4×6」を認めて「8×3の式は相応しくない」とする実践事例は9番目です(pp.54-57)。「4×6」を表す図が面白かったのですが,この件はメインブログで紹介することになりそうです取り上げました。
*1:https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2022/12/29/062638
*2:出版物より根拠を見出すなら,『小学校指導法 算数』[isbn:9784472404221]の「第2学年や第3学年では、読み取った数を、「1つ分の数×いくつ分=全体の数」と表現できることが重要であり、逆に、この立式ができているかで、数の読み取りができているかを判断できる。」