「12個のおはじきを工夫して並べる」という活動から,複数のかけ算の式に表せることを学んでも,「4つの花びんに花を3本ずつ入れます。花はぜんぶで何本いりますか。」の文章題でかけ算の式に4×3が認められることは,保証されていないように思います。
「12個のおはじきを工夫して並べる」は,『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』p.106に書かれています。
(エ) 一つの数をほかの数の積としてみること
ものの集まりを幾つかずつにまとめて数えることを通して,数の乗法的な構成についての理解を図ることをねらいとしている。また,ある部分の大きさを基にして,その幾つ分として,全体の大きさを捉えることができるようにする。
例えば,「12個のおはじきを工夫して並べる」という活動を行うと,いろいろな並べ方ができる。下の図のように並べると,2×6,6×2,3×4,4×3などのような式で表すことができる。このように,一つの数をほかの数の積としてみることができるようにし,数についての理解を深めるとともに,数についての感覚を豊かにする。
「一つの数をほかの数の積としてみること」「12個のおはじきを工夫して並べる」について,前の小学校学習指導要領に基づく解説ではp.81で見ることができます。PDF公開されていないもう一つ前の解説([isbn:4491015503])にも載っています(p.75)。wikipedia:かけ算の順序問題でも,おはじきの並びを配置し,「2×6または6×2」「3×4または4×3」を添えています。
「4つの花びんに花を3本ずつ入れます。花はぜんぶで何本いりますか。」は,メインブログおよび当ブログで「順序を問う問題」と表記してきたタイプの文章題です(例えば,かけ算の順序を問う問題(2014年以降))。算数教育では「基準量が後に示された問題」と呼ばれ,検索すると学習指導案が豊富に見つかります*1。1つ分の数は「3」,いくつ分は「4」で,式は3×4=12,答えは「12本」と書くことが期待されます。
X(旧ツイッター)で見かける主張は,「12個のおはじきを工夫して並べる」活動を通じて,2×6や6×2,3×4や4×3の式で表せるのであれば,「4つの花びんに花を3本ずつ」の場面も,この4つのかけ算の式は正しいものとして認められるべき,と表せます.
ですが,実際にそのような,教科書の記載,学習指導案,論文その他の出版物を,見かけません。単に探して見つからなかったのではなく,その種の主張を学校教育に取り入れると,どの学年でどのような齟齬が生じるかについても認識しています*2。
アレイでない文章題を提示し,求め方にアレイ(3行5列に並んだ桜型のおはじき)を認める事例を,教育出版の教科書で見つけています。ただし立式の根拠ではなく,3×5と式に表した上で,答えを求める方法として採用されています(令和6年度算数教科書読み比べ(7)~図とかけ算)。
類例を,教育出版のより古い教科書でも把握していて,積に基づく乗法の認識について - わさっきhbでは「ある教科書[教育出版2014]には」から始まる文で取り上げています。
そもそも,「12個」として総数が最初に与えられ,おはじきやノートを活用して「一つの数をほかの数の積としてみる」のと,「4つの花びんに花を3本ずつ」の形で指示し,総数を(花びんや花の実物を用意することなく)求めようというのは,状況が異なっています。
さらに,「2×6や6×2,3×4や4×3の式で表せる」という段階で,「なぜその式で表せるのか」の視点が欠落しています。
解説から,「なぜ」の根拠を探ると,上で引用した中に書かれていて,「ものの集まりを幾つかずつにまとめて数える(略)ある部分の大きさを基にして,その幾つ分として,全体の大きさを捉える」のところです。後ろのページ*3の「(一つ分の大きさ)×(幾つ分)=(幾つ分かに当たる大きさ)」に当てはめて,立式できるというわけです
式と図の関連付けは3年でも学習します。現行の解説のp.157と,一つ前の解説のp.128とで,3行4列の○の並びは同じですが,例示する式が異なっています。
*1:本記事作成時にGoogle検索を行い最上位に出現したのはhttps://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1066373/e-sansuu2.pdfで,本時の最初の問題は「おかしのはこが4つあります。1つのはこには、おかしが5こずつ入っています。みんなで何こになりますか。」です。
*2:https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2023/07/27/055320より:等分除と包含除のかけ算の式の違いは,「交換法則を学んだら,かけ算の順序は(かけられる数とかける数の並びは)どちらでもいい」という主張と相反します。実際のところ,6年まで,「どちらでもいい」のではないのです。
*3:https://www.mext.go.jp/content/20211102-mxt_kyoiku02-100002607_04.pdf#page=121;過去の解説には,「(一つ分の大きさ)×(幾つ分)=(幾つ分かに当たる大きさ)」という言葉の式は見当たりませんが,「一つ分の大きさ」「幾つ分かに当たる大きさ」「幾つ分」の各語句は出現します。