かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

かけ算の対称性を子どもたちはいつ学ぶとよいか,いつ気づくか



 やり取りには出てきませんが,「高校」で学ぶかけ算の対称性として,積の法則が思い浮かびます。解説のつかない高等学校学習指導要領にも,この語句は入ってます(https://w3id.org/jp-cos/8454503211000000)。
 以下は,かけ算の対称性を,小学校の何年で学ぶとよいか,また何年で気づくかについて,検討していきます。『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』からだと,第3学年,p.157の以下の図が興味深いです。

 一つ前の学習指導要領に基づく解説でも,3行4列の並びを含む図と式が載っていますが,式は「3×4」のみです。
 アレイを対象としたかけ算は,2年でもすでに学習しています。基本的には縦×横であることや,横×縦に見える式では横長に囲った状況が図になっていることは,令和2年度算数教科書読み比べ(6)~L字型アレイで取り上げてきました。
 学年をまたいだ系統性としては,次のことが想起できます。2年では,3×4と4×3のどちらでも表せることよりも,「1つ分の数×いくつ分」に基づき式に表したり,式に合う○などの並びを構成したりできるようになることを,重視します。3年では,アレイ(長方形的配列)の物体の総数を縦×横でも横×縦でも求められることを学ぶ機会となり,「かけ算の対称性」を認識する萌芽となります。そして4年で,長方形の面積の公式化において縦×横と横×縦を認めるための素地となります。
 いくつか付記すると,上図の○の並びに対し,2×6や他の積の形でも表せることを学ぶという2年向け授業案があります*1。3年で「これ,2×6とか12×1とかになるやつだ」といった主張は取り上げにくくなります。次に,「対称性」という言葉は,わり算の「等分除」「包含除」と同様に,授業で使われる言葉として見かけません.「対称性」を学ぶことを意図した学習指導案も見当たらないのは,等分除・包含除(除法の意味)との違いとなります。
 学年を下げて,2年の文章題において,「1つ分の数×いくつ分」に基づいてa×bとb×aで表される場面から,対称性を指導するというのは,可能でしょうか。子どもたちは(対称性という用語はさておき,その概念を)学んでいるのでしょうか,気づいているのでしょうか.
 授業例や国内外の出版物を踏まえると,かけ算の対称性に「気づいている」や「学ぶ機会となっている」というとらえ方には賛成です。日本の小学校の2年の算数で「対称性を指導する」ことには,反対するとともに,実際のところ見当たりません。
 かわりに学んでいるのは「a×bとb×a,答えは同じでも,意味が違う」です。

 ここにも付言が必要です。ある場面から「a個ずつb個のまとまり」と「b個ずつa個のまとまり」を見つけさせて,a×bとb×aもその場面を表す式になる---これも「a×bとb×a,答えは同じでも,意味が違う」---という事例は知られており,教科書では,新しい算数 | 2年度用 小学校教科書のご紹介 | 東京書籍の▼3年上p.2~3より見ることができます。ただし文章題ではなく図からの立式の事例です。
 本記事作成にあたり読み直した,文献からの抜粋を2件,紹介しておきます。

(略)ラパッポルト氏の指摘にもあるように,整数の段階では,集合の直積に近い意味づけをしても,累加の考えに帰着してほぼ処理できることや,直積の考えのままでは,実際に乗法を適用するに当たって,困難をともなうことなどの理由があげられよう.

単元の途中で図3のような課題が扱われることがある.これは,一つ分が明示的でない場合に,自分で一つ分を設定し,場面を(一つ分の大きさ)×(幾つ分)として構造化し,表現することを経験するもので,わが国での意味の重視にそった活動と言える.

 なぜ日本の小学校の算数で因数×因数による意味づけを採用しないのかについては,出版物に出現する「意味づけ」をもとに,まとめ記事を作りたいと考えています。メインブログ(わさっきhb)の積に基づく乗法の認識についてが,現時点ではそのかわりとなる公表物です。