かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

数の相対的な大きさの第3用法

 長い話は不要という方は,https://togetter.com/li/1777428https://twitter.com/flute23432/status/1440143326729015302https://ameblo.jp/mathsansuu/entry-12608716800.htmlの順にご覧ください。
 関連情報や類似問題に関心のある方は,以下をどうぞ。

 最初のツイートから読み取れる問題文は,次のとおりです。

次の計算は,どんな数をもとにすると,8-5の計算で考えることができますか。
① 800000-500000
② 800-500

 出題意図について,最も明快なのは,以下のツイートです。

 冒頭のTogetterまとめに対し,把握していた情報をコメントにして,メタブ(該当ページではなく,はてなブックマークのページへのブックマーク)しました.URLを並べておきます。

 「800000-500000」や「800-500」を「8-5」に置き換えて計算することは,小学校学習指導要領の算数では,「数の相対的な大きさ」と密接に関係します。上のtakehikomを含むツイートと,そこでつながっている前のツイートで,いくつかURLを挙げています。『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』p.137には,次のように書かれています*1

ウ 数の相対的な大きさ
 第3学年では,数の範囲を万の単位に広げて捉えられるようにする。その際,十,百,千,万を単位として数の相対的な大きさを捉えるようにする。
 500や700は百を単位とすると5や7とみられることから,500+700は5+7とみられる。また800は百を単位とすると8とみられることから,800×5は8×5とみられる。このような数の相対的な見方を活用して,数を捉えたり,数の大きさを比較したり,計算の仕方を考えたりできるようにする。第2学年における学習を踏まえ,数の範囲が大きくなっても,このように相対的な大きさについて,理解が深まるようにする必要がある。

 上記の「5」と「7」,冒頭の問題文の(ひき算の式の)「8」と「5」は,個別に見ると「整数」ですが,数の相対的な大きさの文脈では「幾つ分」と同等視されます。『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』ではp.191に,小数の説明の中で「相対的な大きさは,ある位の単位に着目してその幾つ分とみる見方である。」と書かれています。第2・3学年で学習する「数の相対的な大きさ」「ある単位の幾つ分」は,第3・4学年の小数にも適用可能*2であると,読むことができます。
 そのほか,p.220では「数の」なしで「相対的な大きさで比べていることが分かる」とあります。「幾つ分(何倍か,割合)」に対応する数は,整数でなくてもよいように見えますが,「簡単な場合について,図や式を用いて数量の関係どうしを割合で比べること」(p.219)の内容であることに注意すると,「基準量を1とみたときに,比較量が2倍,3倍,4倍などの整数で捉えられる場合」(同)に限られます。
 「数の相対的な大きさ」は,啓林館の算数用語集ページでも,詳しく解説されていました。

 「数の相対的な大きさ」を英語で表すとどのようになるかについて,一つ前の学習指導要領に基づく,小学校学習指導要領解説算数編 日英対訳を見ると,"relative size of numbers"であり,sizeが複数形のsizesになっている箇所もありました。第2学年では"To understand relative size of numbers by regarding 10 or 100 as a unit.",第3学年では"To deepen their understanding of relative size of numbers."です。また米国Common Coreでは,Grade 2 » Number & Operations in Base Tenの"The numbers 100, 200, 300, 400, 500, 600, 700, 800, 900 refer to one, two, three, four, five, six, seven, eight, or nine hundreds (and 0tens and 0 ones)."が最も関係しそうです。
 数の相対的な大きさの「幾つ分」にあたるのは常に,1桁の整数(1位数)かというと,反例があります。『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』p.191では,「1.68は0.01が168集まった数」を例示しています。出題例では,東京都算数教育研究会の学力実態調査があります。http://tosanken.main.jp/data/jittaityousa-kousatu/h30gakuryokujittaityousa/h30jittaityousa_merged.pdf#page=6より読むことのできる,第2学年大問4の内容は,次のとおりです。

こうじさん、ゆうこさん、さとみさん、あきらさんの さいふの 中には、ちょうど 2000円ずつ お金が 入って います。さいふの なかみの ことを 4人が話しています。□の中に あてはまる 数を かきましょう。
(1) 1000円さつが□まいで 2000円です。
(2) 100円玉が□こで 2000円です。
(3) 1000円さつが1まいと、100円玉が□こで 2000円です。
(4) 1000円さつが1まいと、100円玉が 7こ 10円玉が□まいで、2000円です。

 正解は順に,2,20,10,30です。数の相対的な大きさを考えることなく,例えば(4)については1000×1+100×7+10×□=2000に当てはまる数を求めることも可能ではあります。
 全国学力テストより見ることのできる関連問題について,https://twitter.com/takehikom/status/1440125076955811842とそのあとのツイートより取り出しておきます。令和2年度(実施されなかったが問題と解説資料が公開されたもの*3)には広く捉えると3問があることになります。

  • H27(2015)算数A大問1(2) 5.21+7を,0.01をもとにした式に表します。5.21と0.7は,それぞれ0.01を何個集めた数になりますか
  • H24(2012)算数A大問2(1) 47000は1000が□個集まった数です。
  • H21(2009)算数A大問2(2) 100を45個集めた数を書きましょう。
  • R2(2020)算数 大問1(3) 72000㎡は,何の72000個分ですか。
  • 同 大問3(3) 1つ分の大きさの(横方向に細長い図形)は,□Lを表しています。
  • 同 大問3(4) 0.75+0.9について,【はなこさんの説明】と同じように,ある数のいくつ分かを考え,整数のたし算に表して説明すると,どのようになりますか。

 「数の相対的な大きさ」に関する出題を,うまく類型化できないか…という問題意識のもとで,この語句で検索したところ,ブログ記事を見つけました。

 連続している文章について,その難しさの比較が行えるよう,分けて引用します。

ここから本時のメインである「数の相対的な大きさ」に入ります。最初は
「1000が17個で□」
というタイプです。これは「元にするもの」が見えていてその個数が示されているので数の約束通りに求めることができます。与えられたもの同士で結果を求めるので「目に見える行為」となります。理由も説明しやすくなっています。17を10と7に分ければ定義通りです。

次は,
「2600000は1000が□個」
というタイプです。これは逆思考的な問題と言えますが,包含除的なイメージ(1000×□=2600000)とも言えるので,比較的容易にイメージできます。(先の問題よりは抵抗感はある)

最後に教科書の練習題の中にあったのが,
「2840000は何が2840個でしょう。」
というタイプの問題です。□×2840=2840000なので「等分除的」問題になっています。こちらはかなり抵抗感があったようです。

 こうして見ると,「2840000は何が2840個でしょう。」も,「次の計算は,どんな数をもとにすると,8-5の計算で考えることができますか。」も,3用法のうち第3用法となります。
 第3用法(等分除)が難しいとされている状況を,メインブログ・当ブログより抜き出します。

「多くの児童にとっては,①の場合に比べ,②の方がとらえにくい」について,掘り下げてみます.番号ではなく言葉にすると,「包含除(の拡張)よりも等分除(の拡張)の方がとらえにくい」となります.
(略)
以上をもとに,誤答の典型的な状況を整理してみます.
高学年になったら,割合にあたるPが1よりも小さいとき,A÷Pの式が正解となる文章題で,A×Pとやってしまいがちです.また上記の,棒の重さの問題は,A÷Pが正解,P÷Aは誤答という事例です.いずれも,等分除の拡張に当たります.

「速さ」だけ,第3用法,第2用法,第1用法の順です。ただし「度の3用法」を認めることにすると,第1用法(速さの定義に基づく式),第2用法,第3用法の順になると言えます。また,「第3用法が最も難しい」と言われることがあるのは,

  • 「割合=比べられる量÷もとにする量」で表される数量の関係において,「もとにする量=比べられる量÷割合」の式で求めるべき状況で間違えやすい
  • 「速さ=道のり÷時間」で表される数量の関係において,「時間=道のり÷速さ」の式で求めるべき状況で間違えやすい

として,共通化することができます。

 ここまで雑多に取り上げてきた中で,個人的にお勧めしたい,小学3年生ならぜひ,正解できるようになってほしいと思ったのは,「47000は1000が□個集まった数です。」です。この文のうち,1000が,「もとにする数」あるいは「単位」に該当しますが,「もと(基)」や「単位」を使用することなく,簡潔に,「数の相対的な大きさ」を理解しているかを問うものとなっているのです。


 800000-500000を,「8-5の計算で考える」ことについて,ファンタジーの法則 × 被乗数と乗数の順序の画像を改変し,図を作成してみました。

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 言葉で表すこともできます。「『8十万,ひく,5十万』を計算するばあい,『十万』をもとにすると,『8十万』は『8』,『5十万』は『5』になります。ひき算は『8,ひく,5』で,『3』です。『十万』をもとにしたときの『3』は,じっさいには『3十万』です。だから『8十万,ひく,5十万』の答えは『3十万』です」となり,十万を百に置き換えることもできます。

*1:ただしこの解説で「数の相対的な大きさについての理解」とは何をすることかが書かれているのはpp.105-106,第2学年です。

*2:分数についても,「分数が単位分数の幾つ分かで表すことができることを知ること。」が,(解説のつかない)小学校学習指導要領の算数の第3学年に書かれています。

*3:https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2021/01/29/055223